福島県の湧水シリーズ(その12)
“鮫川村の湧水―湯壺”
技術部地盤調査課 藤沼伸幸
技術部地質環境課 澤内知子


所在地
 東白川郡鮫川村赤坂中野地内(内ヶ竜川右岸)

はじめに
 東白川郡鮫川村のほぼ中心部に、地元の方々に今でも生活用水として大事に使用されている湧水があります。今回はこの湧水(地元では「湯壺」と呼ばれています)を訪ねました。

位置
地図
図1 鮫川村「湯壷」案内図
―国土地理院発行2万5000分の1「磐城新宿」より抜粋・改変―
 「湯壺」のある鮫川村は、福島県の南部、須賀川市街より東南東方向約15km地点の阿武隈山系中部に位置しています(図1)。
 本湧水地へは、車で国道349号線もしくは国道118号を利用すると便利です。福島方面から国道118号を利用する場合は浅川町で県道71号線へと左折し約10km、国道349号線を利用する場合は古殿町から鮫川村へと入り鮫川沿いに渓流の景色を楽しみながら約5kmほど車を走らせた所に「湯壺」はあります。
 どちらのルートも鮫川村役場の前を通り過ぎ、約10分ほどで県道71号線との分岐点に到着しますので、ここを県道71号線へと左折しましょう。300mほど先、道路の左側に酒屋さんが見えたら、反対側の空き地に車を停めます。建物と建物の間に内ヶ竜川へと降りる道がありますので住民の方にきちんとご挨拶をしてから降りてみましょう。
 ほどなく、河岸にコンクリートの井側が設置されており、水が流れ込んでいる光景が目にはいるかと思います(もし、気温が低ければ、水面から湯気が立ち上っているかもしれません)。ここが地元のみなさんに「湯壺」として親しまれている場所になります。


「湯壺」の由来−親しまれる湧水
 「湯壺」についたらまず手を浸してみましょう。水が温かいことに驚かれるはずです。湧水の水温は23.3℃、電気伝導度がEc=163.9μS/cm、pH=9.50でした(2001年3月19日測定)。水温、pH共に高いことが特徴的です。この「湯壺」の水(お湯といった方が正しいでしょうか?)は近所の皆様に生活用水として利用されています。今回は、代表して管理されている芳賀喜一様に「湯壺」についてのお話を伺いました。
 芳賀様のお話によると、もともとこの場所で温かい水が湧いていることが知られており、先祖代々使われきたことが言い伝えられているそうです。「湯壺」の名称も昔から口伝えに伝わってきたとのことです(昔から水温が高かったのでしょう)。
 今から40年ほど前に芳賀様がみんなで「湯壺」の湧水を使えるようにと発案し、塩ビパイプを差し込み周辺部を掘り下げて、湧水が貯まるようにしたそうです。
 現在は貯まった水をポンプで汲み上げて各家庭で使用できるようにしています(井側に流れ込む水は余り水ですが、毎分100リットルほど湧出していました)。付近の住宅約40軒で風呂や洗濯などの生活用水として湧水が利用されているとのことでした(なお、飲料水は山からの引き水を使用しているそうです)。
 また、普段から利用されている方はあまり感じないそうなのですが、水質がアルカリ性なのでお客様が泊まりにきてお風呂にはいると肌がすべすべすると喜ばれるとのことです。自宅で温泉気分が味わえるとは、ちょっとうらやましい気がしますね。
 突然の来訪にもかかわらず、お話を聞かせてくださった芳賀様にはこの場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

「湯壺」周辺の地質について
地図
図2 「湯壷」周辺の地質図
―竹貫地域の地質(1973)より抜粋・改変―
 本地点付近の地質は、地質図に示されるように片状石英閃緑岩およびミグマタイト質岩類が分布しています(図2)。これらの深成岩類は今から約7000万年前(白亜紀後期)に地下深部で形成されたものと考えられています。
 本地点の北側にはさらに古い時代に形成されたと考えられる竹貫変成岩類(主に片麻岩から成る)が分布しており、褶曲構造が発達しています。


「湯壺」の水質について
 本湧水の主イオン分析の結果を表1にまとめます。さらに、その結果からトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを作成しました。

表1 水質分析結果表
採水場所 鮫川村湧水(鮫川村赤坂中野地内)
(採水日) (2001年3月19日)
水温 23.0℃
pH 9.5
電気伝導度 169μS/cm
検査項目 mg/リットル me/リットル
カルシウムイオン(Ca2乗 3.8 0.19 12.9
マグネシウムイオン(Mg2乗 0.33 0.027 1.8
ナトリウムイオン(Na2乗 28 1.218 82.8
カリウムイオン(K2乗 1.4 0.036 2.4
陽イオン総量 1.47 100
炭酸水素イオン(HCO32乗 5> 0 0
塩素イオン(Cl2乗 4.8 0.135 41.7
硫酸イオン(SO42乗 9.1 0.189 58.3
硝酸イオン(NO32乗 0.02> 0
陰イオン総量 0.325 100


 この結果、この湧水はナトリウムイオンを多く含み、炭酸水素イオンの少ない、W型「非重炭酸ナトリウム型」に属することがわかります。
 この水質組成は、一般に海水および海水が混入した地下水か温泉水であるとされています。


トリリニアダイヤグラム 水質区分
領域 組成による分類 水の種類
I 重炭酸カルシウム型
Ca(HCO3)2
Ca(HCO3)2 Mg(HCO3)2型の水質組成で、わが国の循環性地下水の大半がこの型に属する。石灰岩地域の地下水は典型的にこの型を示す。
II 重炭酸ナトリウム型
NaHCO3
NaHCO2型の水質組成で、停滞的な環境にある地下水がこの型に属する。したがって、地表から比較的深い地下水の型といえる。
III 非重炭酸カルシウム型
CaSO4又はCaCl2
CaCl2又はCaSO4型の水質組成で温泉水・鉱泉水および化石塩水等がこの型に属し、一般の河川水・地下水では特殊なものであり、温泉水や工業排水等の混入が考えられる。
IV 非重炭酸ナトリウム型
Na2SO4又はNaCl型
Na2SO4又はNaCl型の水質組成で、海水および海水が混入した地下水・温泉水等がこの型に属する。
V 中間型 I〜IVの中間的な型で、河川水・伏流水および循環性地下水の多くがこの型に属する。


図02 図01
(図3)ヘキサダイヤグラム (図4)トリリニアダイヤグラム


 そこで、本湧水に棚倉破砕帯を起源とする温泉水の混入があると考え、付近の温泉水質との比較を試みました。資料として、昭和25〜39年の水質試験結果を用いています。
 本湧水に一番近い「湯ノ田温泉」は、トリリニアダイヤグラムでは、X型に属し、表流水や浅層地下水が混入する温泉水ではないかと考えられます。ヘキサダイヤグラムで比較してみても、「湯壷」とは異なる水質を示しているように思えます。そこで、隣町の塙町や矢祭町の温泉との比較もおこないました。
 すると、ヘキサダイヤグラムで「谷川の湯鉱泉」や「志保の湯温泉」、「湯岐温泉」などが、特に陽イオンの組成が似ていることがわかりました。
 「湯壷」の分析結果では、炭酸水素イオンが少ない(分析結果からは0%とした)水質となっていますが、これはなんらかの原因(分圧の加減で気体化した、植物性生物の光合成などによって消費された等)で、本来の含有量より減少したと考えれば、本湧水には温泉水の混入が考えられるのではないでしょうか。
 また、pHや水温が高いことなどからも、温泉水の混入は否定できないように思います。

図01 図01
井側に流れ込む余り水の様子


引用文献
  1. 1) 地質図「竹貫」(1973):地質調査所発行、地質図幅説明書





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