環境特集

土壌・地下水汚染

技術部地質環境課長 大坪久人
地質調査技士、技術士補(応用理学部門)


1.土壌・地下水汚染の調査と対策工事
 「環境」この言葉は社会情勢を語る上でのキーワードとして、必要不可欠となった感があります。
 当社では、巻頭にも示されている三つの理念の一番目に「住み良い地域づくりと地球環境の保全」を掲げ、「土と水の仕事」を通じ日々活動しています。特に私の所属する地質環境課では、これまでに培ってきた地質・地下水調査の技術を活用して土壌・地下水汚染調査に携わり、
 ◎土壌・地下水汚染の概況調査
 ◎有機塩素系化合物による地下水汚染調査
 ◎重金属による土壌・地下水汚染調査 
 ◎油による土壌・地下水汚染調査
等の業務を各所で行ってきました。
 これらの業務の中、ある汚染サイトで汚染土壌の撤去工事を実施しました。このサイトは高濃度の汚染土壌が建屋地下の比較的浅いところに分布しており、今後の汚染拡散を防ぐため汚染源を浄化しなければならないという対策工事でした。

 今回はこの工事について紹介したいと思います。
 本サイトで設定された地下水及び土壌に対する対策条件は次のようなものでした。

地下水 a)汚染された地下水が敷地外へ流動することを阻止する。
b)地下水中の汚染物質を除去する。
土 壌 a)上部構造物(建屋)に変位を発生させない。
b)建屋内部での業務に障害を与えない。


これらの条件の中、地下水についてはバリア井戸を新たに設置し、揚水した地下水を処理した後に放流するという一般的な対策法を採用しました。

 一方、汚染源の浄化を行うに当たり、次のような問題が明らかとなりました。

  1. 建屋周辺に既設配管(ライフライン配管)が密集し、建屋外部から掘削を行うことが困難であり、仮に外部から掘削を行った場合、建屋内での作業及び業務に影響を与えるおそれがある。

  2. 建屋内部には機械設備が設置されており、移設することが出来ない。

  3. 建屋基礎(独立基礎)下部の土壌も汚染されており、撤去が必要である。

 この条件及び問題に対し、当社ではa)原位置での浄化、b)地下水を利用した汚染物質の回収、c)汚染源の撤去、の各対策について検討しました。
 しかしa)、b)両案は、周辺地下水への影響、対策に要する時間の制約等があることから、最終的にc)汚染源の撤去、を対策として採用し工法の検討を行い、結果的にアンダーピニングを基本とした工法を採用しました。
 通常行われるアンダーピニング工法とは、現在設置されている基礎杭の下に別な構造物を造る場合などに使用される工法で、基礎全体(または一部)を横桁などで支えてジャッキアップしておき、その下の基礎杭を切断して構造物を造るという、ダイナミックな外科手術のような工事です。
 今回対象となる建屋は、杭基礎ではないため厳密に言うとアンダーピニング工法ではないのですが、アンダーピニング工法で行われるように、機械が設置されている床版、直接基礎の底面をジャッキや鋼材で支えながら、汚染土壌の撤去を進めることとなりました。
 実際に工事で行った内容としては、(1)直接基礎2基の仮受けの実施、(2)機械下部の床版に支保工を設置、というように建屋下部に地下室を作る要領で汚染土を約80立方m撤去、処分しました。
 また、土壌の撤去完了後は建屋下部の空間を良質土で埋戻したことは言うまでもありません。

 このように、今回採用した手法は、結果として外科的でオーソドックスな手法であり、近年開発が進んでいる原位置での抽出・分解処理のような新規技術ではありませんでした。しかし浅層に高濃度の汚染土壌が分布するような小規模の汚染であった場合、比較的有効な手法であると言えます。

 ただし、このような工事手法が選択できたのは、当然のことながら詳細な調査・試験データがあったためであり、十分な調査がより良い対策を可能とすることを忘れてはいけません。

2.土壌・地下水汚染を巡る新たな動き
 さる2月15日、「土壌汚染対策法案」が閣議決定され、第154回通常国会に提出されました。
 本文の執筆時点では法案が成立するかどうかは不明ですが、この法案の概要について説明したいと思います。

土壌汚染対策法案の概要
主  旨
土壌の汚染の状況の把握、土壌の汚染による人の健康被害の防止に関する措置等の土壌汚染対策を実施することにより、国民の健康の保護を図る。

対象物質
鉛・砒素・トリクロロエチレンその他の物質であっても、それが土壌に含まれることに起因して人の健康被害を生ずる恐れのあるもの

土壌汚染の状況の調査
  1. 使用が廃止された「特定有害物質の製造、使用又は処理をする水質汚濁防止法の特定使節」に係る工場・事業場の敷地であった土地
    ※土地の利用方法からみて人の健康被害が生ずるおそれがないと都道府県知事が確認したときをのぞく
  2. 都道府県知事が土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれがあると認める土地

    1.または2.の土地の所有者は、当該土地の土壌汚染の状況について、環境大臣の指定を受けた機関(指定調査機関)に調査させて、その結果を都道府県知事に報告。

(土壌の汚染状態が基準に適合しない土地)
指定区域の指定等
都道府県知事が「指定区域」として指定・公告。また、台帳を調整し、閲覧に供する。
▼               ▼
【汚染の除去等の措置命令】
指定区域内の土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれがある場合
  • 都道府県知事は、土地所有者等(※の場合には、汚染原因者)に対し、汚染の除去等の措置を命令。

    ※汚染原因者が明らかである場合であって、汚染原因者が措置を講ずることにつき土地所有者等に異義がないとき。
    命令を受けた土地所有者は、汚染原因者に費用を請求可能。
  • 【土地の形質の変更の制限】
    1. 指定区域内で土地の形質変更をしようとする者は、都道府県知事に届出。
    2. 都道府県知事は、施行方法が一定の基準に適合しないと認めるときは、その施行方法に関する計画の変更を命令。
    指定支援法人
    汚染の除去等の措置を講ずる者に対し助成を行なう地方公共団体に対する助成金の交付等の業務を実施。また、このための基金を設置。


    グラフ
    図-1 年度別土壌汚染判明事例
    ( 2002/2/26環境省発表資料より抜粋)

    グラフ
    図−2 年度別超過事例(累積)判明経緯
    ( 2002/2/26環境省発表資料より抜粋)

     この法案が提出された一因として、近年の土壌・地下水汚染判明件数の急激な増加にあります。(上図参照)
     従来、土壌・地下水汚染は、行政が関与した調査により明らかとなるケースが大半を占めていました。しかし平成10年度以降、土地所有者が実施した調査により汚染が明らかになるケースが激増するようになりました。
     これは各工場や事業所において、環境ISO (ISO14000シリーズ)を取得するため独自に実施した調査により、今まで表面化していなかった汚染が明らかとなったためです。
     さらに最近では、経済情勢の変化に伴い市街化された工場・事業所跡地において、土壌・地下水汚染が発見され問題となる、一般市民に近接した土壌・地下水汚染事例がしばしば報道されるという状況です。
     これらの土壌・地下水汚染の問題に対して提案されたものが今回の法案であると言えましょう。
     この法案は、『使用が廃止された「特定有害物質の製造、使用または処理をする水質汚濁防止法の特定施設」に係る工場・事業所の敷地であった土地』すなわち、汚染原因物質を使用していた工場・事業者に対し、敷地用途の変更時に土壌・地下水調査を義務づけており、各地方公共団体に対しては、汚染された土地を公開し、さらに汚染原因者もしくは土地所有者に対し汚染に対する処置が命令できる、汚染に対しより踏み込んだ内容となっています。
     なお関係各方面からの情報によりますと、今回のこの法案により対象となる土地は全国で2万数千ヶ所と予想されています。また、現在対象とされている汚染原因物質は、鉛、ヒ素、トリクロロエチレンがあげられていますが、詳細な項目については検討中の段階です。さらに、基準値として従来は参考値としての扱いであった重金属類の含有量についても、直接摂取の可能性を考慮し、改めて基準が設けられるとのことです。

     一方で、これまでに土壌・地下水汚染に対し適用されていた汚染の浄化義務は法案では定められておらず、今後制定される政令により対策の内容が定められる予定です。
     また今回の法律では、汚染問題の中でもっとも現実的な課題となっていた汚染除去費用の援助について規定されています。それは指定法人による地方公共団体への助成金の交付です。
     この助成金は、政府,民間から集められた基金を活用するもので、指定法人としてほぼ内定されている「(財)日本環境協会」から汚染除去を行うものに対して助成を行う各地方公共団体へ配分されるとのことです。
     以上が、現在開催されている第154国会に提出された「土壌汚染対策法」の概要ですが、この法案では土壌・地下水調査を実施する「指定調査機関」についても触れられています。法案では明示されていませんが、地質調査事業者、計量証明事業者、ボーリングを行える事業者等が「指定調査機関」の候補として挙げられているそうです。
     当社としては、ぜひ調査機関としての指定を受け今後の業務としていければと考えております。

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