特  集

猪苗代盆地の地盤特性と基礎地盤としての問題点

代表取締役社長 谷藤 允彦
(技術士・応用理学部門)


1.建築物の基礎として地盤を評価する5つのpoint
  1. 建物荷重により地盤の破壊を生じないか・・・・地盤の支持力度>建物荷重度の条件を選定する。N値と地盤支持力の概略値は「表-1」に示すので参考にされたい。
  2. 基礎の過大な沈下を生じないか・・・・地盤の圧縮特性と増加荷重(建物・盛り土)の関係から沈下が許容範囲に収まるかの検討。
  3. 地盤の変形を生じる恐れはないか・・・・地すべり、斜面崩壊、盛土による圧密沈下、地下水位低下による地盤沈下、切土盛り土による斜面不安定化等の要因に関する検討。
  4. 地震による基礎地盤の液状化の危険は無いか・・・・地下水位が高く緩い相対密度を示す粒径均一な砂層が液状化を生じやすい。基礎構造設計基準(日本建築学会)による液状化の判定基準を「資料-1」に示す。
  5. 建築予定の土地の地層が汚染されていないか・・・・重金属・有機塩素系溶剤・農薬などによる土と地下水の汚染について所有者に対策を義務づける「土壌汚染対策法」が今国会で成立し、汚染の有無を調査し、登録することになった。土壌環境保全対策の全体像については「資料-2」に示す。
表-1 N値と地盤支持力の概略値
式

わかりやすい土木技術「土質調査の基礎知識」小松田精吉著 鹿島出版会


かつてはA.〜C.について検討するだけで十分とされていたが、地震災害が頻発する中でCの検討が不可欠になり、最近は地球環境への関心の高まりに合わせてE.の問題が新たに付け加えられるようになった。


<資料1>
表 日本建築学会基礎構造設計基準・同解説による液状化判定基準
以下の諸条件にあてはまる砂層を液状化の可能性検討の対象とする。
  1. 地表面から15mないし20mの深さ以内にある。
  2. 純粋な砂層で、粒径が均一な中粒砂からなる。
    シルト・粘土の含有率10%以下
    平均粒径D50=0.075〜2.0mmとくに0.15〜1.0mmの範囲
    均等係数Uc<10 液状化の危険性が高い
        Uc<5 危険性極めて高い
  3. 地下水位下にあって、水で飽和している。
  4. 締まり方が緩く標準貫入試験のN値が右図の危険範囲内にある。なお、N値が範囲Aにあれば液状化の可能性は少なく、Cの範囲内にあればその危険性は高いと判断される。範囲Bは地盤や地震動の特性に左右されていちがいに判断を下すことが困難であり、さらに詳細な検討を行わなければならない。





<資料2>
土壌環境保全対策の全体のイメージ
目的
有害物質による土壌汚染は、放置すれば人の健康に影響が及ぶことが懸念されることから、国民の安全と安心を確保するため、その環境リスクを適切に管理し、土壌汚染による人の健康への影響を防止。
対象物質
直接摂取によるリスク(人が直接摂取する可能性のある表層土壌中に高濃度の状態で長期間蓄積し得ると考えられる重金属等)
地下水等の摂取によるリスク(地下水等の摂取の観点から定められた現行の土壌環境基準における溶出基準項目)
仕組み
図



2.猪苗代盆地の地形と土質の特性
(1)猪苗代盆地の地形と地質・・・火山活動と埋積途中の湖盆
地図  猪苗代盆地は奥羽山脈の中に形成された山間盆地である。東側は川桁断層によって奥羽山脈の東主脈に接し、南側は会津布引山に、西側は背中炙山に、北側は磐梯山・猫魔山に囲まれている。この盆地の南半部に猪苗代湖があり、北側を中心にこの猪苗代湖を埋め立てた沖積平野が広がっている。また、背中炙山と猫魔山の間には、比高差は小さいが凹凸に富む高原状の台地が会津盆地に向かって傾斜している。
 東側の奥羽山脈は新第三紀中新世中期以前(1000万年以上前)の比較的古い時代の岩石からなる。南と西側は、第四紀更新世前期(70〜185万年前)の大規模な陸上火山活動に伴う火砕流堆積物を主とする地層(背中炙山層)となっている。
 北側にそびえる磐梯山と猫魔山は新しい火山であり、溶岩と火砕流を何回も流し、間に火山灰を挟む成層火山である。猫魔火山のほうが磐梯山よりもやや古い火山であることが知られている。磐梯山は、1888年の裏磐梯山体崩壊をもたらした噴火活動がよく知られているが、一昨年からの活動活発化に伴い、火山情報が出されたことは記憶に新しい。
 北西方向、背中炙山と猫魔山の間の高原状台地は、有史以前に発生した磐梯山の山体崩壊に伴う堆積物(翁島火砕流)が作ったものである。「図-1」に猪苗代盆地周辺の地質図を示す。


(2)猪苗代湖の沖積層・・・新しい堆積層・軟弱地盤・地下水の自噴・液状化
猪苗代地内のボーリング柱状図
表
図-2 市街地
表
図-3 河口付近
猪苗代湖の誕生は数万年前に始まるとされている。北岸に広がる低平地は、長瀬川が運搬した土砂によって湖水が埋め立てられ湖面が少し下がることによって陸地化したものである。長瀬川の付近では陸地化した後に川が運搬堆積した砂礫層を主体とする氾濫原堆積物が湖成層の上を覆っている。右岸側氾濫原の西側の低平地は広い湿地帯になっていたと考えられ、厚さ数mの腐植土層が湖成層を覆っている。湖成層は砂及び泥(シルト〜砂質シルト)を主体とし、砂礫を挟んでいる。場所によっては有機物の混じったシルトが卓越したり砂層が卓越したりする。湖成層は大部分が非常に新しい堆積物であり、シルト層は非常に軟い〜軟い、砂層は非常に緩い〜緩い範囲にあり、構造物の支持層としては問題が多い。特に腐植土層は軟弱であり、磐越自動車道の盛土は施工後10年以上経過した現在でも圧密沈下が続いていることは、自動車道を走るときの車の振動で確認することができる。湖成層中には長瀬川の伏流水を中心に磐梯山麓からの地下水が流入しているため、地下水は殆どの地域で被圧面地下水となっており、地下掘削に伴って自噴することが多い。帯水層が細砂層の場合は、ボイリングやクィックサンドを発生しやすい。地下掘削を伴う土木建築工事では最も気を使わなければならない問題である。
 地下水位が高く浅所に緩い砂層が分布するという地質状況は、地震による地盤の液状化を発生しやすい条件に重なっている。液状化についてもその危険を評価し、必要な対策を検討しなければならない。「図-2」・「図-3」に猪苗代市街地の典型的な柱状図と河口付近の柱状図を示す。


(3)火山地域の地盤特性・・・各単層が不整合関係・不均質・土地の造成
写真 磐梯山は成層火山であり、山体は溶岩・火砕流・山体崩壊に伴う岩屑雪崩・火山灰などが複雑に重なり合う。これらの地層は山麓部では直接地表に露出し、低平地では沖積層に覆われて分布する(1888年の山体崩壊とそれに伴う岩屑雪崩・泥流堆積物は沖積層を覆っている)。1回毎の火山活動によりもたらされた堆積物は、各単層が不整合関係で複雑に重なり合う。このため、狭い範囲で地層変化が激しく、連続性に乏しいことが特徴の一つである。
 岩屑雪崩や泥流堆積物においては、同一単層内でも含まれる岩塊の大きさや含有割合、基質の土性や硬軟などが不均質であることが多い。このため、調査ボーリングデーターから得られるN値が大きくばらつき、支持層の選定・地耐力評価が困難なことが多い。また、軟弱な基質に大きな岩塊が含まれる場合には、基礎工法の選定や施工方法にも多くの困難を伴う。
 山麓部の建設工事は、殆どの場合土地の造成を伴う。思いがけないところで巨大な岩塊や溶岩に当たり切り取り困難を生じたり、それらを盛土した場合に基礎施工に問題を生じるケースがある。火砕流堆積物を盛土に使用するとガリ侵蝕を受けやすい場合もある。「図-4」に山麓部の典型的な地質断面図を示す。
 猪苗代町周辺は、沖積層分布地域においても、磐梯山山麓地域においても、建設工事の基礎地盤としてみた場合、非常に問題の多い地域となっている。従って、目的に合わせたしっかりした調査を行って、企画・設計を行う必要がある。特に地質調査についてはこの地域の地質・地盤の特性に精通している調査担当者を配置できる調査会社を選定することが重要であることを強調したいと思います。

(平成14年5月10日に福島県建築士会猪苗代支部の研修会で講演した内容をもとに加筆訂正したものです)


グラフ
図-4 山麓部の地質断面図

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