基礎工特集

ブレードパイルによる液状化対策の可能性について

アートスペース工学(株)代表取締役・新協地水(株)技術顧問
小松田 精吉(工学博士、技術士 建設部門)


1.はじめに
 ブレードパイル(回転埋設鋼管杭)の一つの特長は、地上に土砂を排出しない、いわゆる無排出土工法であるという点である。杭を埋設する過程で、杭周辺土は杭を挿入した体積分だけ横方向に圧縮する。この挙動は、地盤を締め固める効果を発揮する。
 また、杭が埋設された状態は、杭体積分の土と杭が置き換わった状態を示す。つまり一種の置換効果である。ブレードパイル工法は、杭頭にかかる鉛直荷重を地盤に伝達する、本来の基礎杭としての役割を果たすだけでなく、(1)締固め効果と、(2)置換効果の二つの効果が期待される。
 締固め効果は砂質土と粘性土地盤とでは、そのメカニズムが大きく異なることが予想される。粘性土の場合、杭の埋設中における横方向の圧縮により、杭周辺土に過剰間隙水圧が発生すると思われる。発生した過剰間隙水圧が土と杭に対してどのような影響を与えるかは、実験的に解明しないとよく分からない問題である。
 砂質土の場合は、圧縮した即時に間隙比が減少すると考えられる。ここにブレードパイルが液状化対策工法として期待できる根拠がある。この小論では、ブレードパイルによる液状化対策の一つの可能性について理論的に論究したものである。

2.地盤の液状化要因と対策
  液状化の発生機構についての研究は、新潟地震以前から、Terzaghi, Tschebotarioff,最上武雄らによって進められてきた。そして、新潟地震以来、砂質地盤の液状化問題は世界的な規模で研究され、特に、Seedやわが国の研究者達の果たした役割が大きい。液状化に対する一定の定式化が図られたかに見えたが、兵庫県南部地震によって再び液状化問題を検討する必要性に迫られた。
 各分野で、設計指針や基準が見直しされ、中でも液状化検討の対象土条件を拡大せざるを得なくなった。土木、建築分野において殆ど共通しているが、液状化検討対象土条件を、次の3点にまとめて今日に至っている。

  1. 地下水位が現地盤面から10m以内にあり、かつ現地盤面から20m以内の深さに存在する飽和土層。
  2. 細粒土分含有率FCが35%以下の土層、またはFCが35%を超えても塑性指数Ipが15以下の土層。
  3. 平均粒径D50が10mm以下で、かつ10%粒径D10が1mm以下である土層。
    一方、液状化が発生したとしても、建物に被害が生じなければよいわけで、このために液状化対策が行われる。液状化の発生によって、建物に被害を与える主な要因を要約してみると、次のようなことになる。
  4. 液状化層の繰り返しせん断ひずみによる地表面の不同沈下。
  5. 噴砂現象による地盤変形。
  6. 水平永久変位による地盤の移動。
 液状化対策には、液状化そのものを発生させない対策と、液状化の度合いを緩和させる工法の二通りの考え方があるように思う。ブレードパイルが木造住宅建築物程度規模の基礎杭として使用されている現状では、液状化対策も木造住宅建築に悪い影響を与えないことを基準に検討すればよいと考える。
 図.1は非液状化層と液状化層の厚さの関係で、木造住宅の被害可否を判定する図の一例である。つまり、非液状化層を増大させてやれば、木造住宅の被害を防止または軽減することが可能であることを示唆している。また、標準貫入試験のN値は、15〜20程度に改良すると、その砂層で液状化が発生し難いとも考えられる。

登録証
図.1 非液状化層厚と液状化層厚の関係による被害評価(石原ら1985)

3.ブレードパイルによる液状化対策の設計法の提案
 液状化対策の対象となる地層の厚さがどの場所においても一定であるとすると、杭の埋設による圧縮比は、1本当たりの杭が負担する地層の平面積A0に対する杭の断面積Apが占める割合、Ap/A0で表される。また、締め固め効果がある、なしに関わらず杭の置換によって地層の間隙量が減少するが、これも同様にAp/A0で表すことができる。したがって、砂層の間隙量の変化との関係で示すと、次の式で表される。

式

 小松田は砂質土の間隙比eをN値によって次式で示されることを提案している。
 e=1.15−0.4log N´・・・・・(2)
 ただし、N´=15+0.5(N−15)  N>15
 自然地盤の初期N値がN0´における間隙比をe0、N値がNb´となった時の間隙比をebとすると、間隙比の変化量Δeは次のようになる。

式

 杭直径をDとし、杭配置を正方形と正三角形とした場合の杭芯間隔は、次のような関係となる。
 正方形配置
式

 正三角形配置   l=2.128ζD・・・・・(6)
 締め固め後のN値を設定したら、初期N値との関係で式(5)からζを計算することによって、液状化対策としてのブレードパイルの杭芯間隔を設計することができる。式(5)の関係をまとめて表.1に示した。


4.液状化による地表面沈下量の抑制
 時松らの研究によれば、液状化時のせん断ひずみδ(%)によって生じる地表面沈下量Sは、次の式で推定される。 式

ただし、H:液状化層の厚さ  せん断ひずみδは、補正N値Naと応力比τd/σZ´により、図.2から求める。しかし、この図からせん断ひずみを読み取るのが面倒であるので、安全側であるがやや正確さに欠けることは否めないが、図.2を根拠にして補正N値Naとせん断ひずみδ(%)の関係を次の式で表すことにした。   δ=64Na+・・・・・(8)

表.1 初期N値N0´と目標N値Nb´による杭間隔係数ζの値
Nb
N0'
5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
5' 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 15.5 16 16.5 17 17.5 18 18.5 19 19.5 20
2 2.258 2.057 1.931 1.836 1.763 1.704 1.656 1.615 1.580 1.550 1.523 1.511 1.499 1.488 1.478 1.468 1.458 1.449 1.441 1.433 1.425
3 2.972 2.551 2.307 2.145 2.026 1.936 1.863 1.804 1.754 1.711 1.674 1.657 1.642 1.627 1.613 1.599 1.587 1.575 1.563 1.552 1.542
4 4.439 3.293 2.803 2.518 2.328 2.190 2.085 2.000 1.931 1.873 1.824 1.802 1.781 1.761 1.743 1.726 1.710 1.694 1.680 1.666 1.653
5   4.860 3.578 3.027 2.707 2.493 2.337 2.218 2.123 2.045 1.980 1.954 1.924 1.899 1.876 1.854 1.834 1.814 1.796 1.779 1.763
6     5.241 3.836 3.231 2.879 2.643 2.471 2.340 2.235 2.150 2.112 2.078 2.046 2.016 1.989 1.963 1.939 1.917 1.895 1.875
7       5.590 4.075 3.420 3.038 2.782 2.596 2.453 2.340 2.291 2.247 2.206 2.169 2.134 2.102 2.072 2.044 2.018 1.994
8         5.914 4.296 3.596 3.187 2.913 2.713 2.560 2.496 2.438 2.385 2.338 2.294 2.254 2.217 2.182 2.150 2.120
9           6.217 4.505 3.762 3.328 3.036 2.823 2.737 2.660 2.592 2.530 2.475 2.424 2.377 2.334 2.295 2.258
10             6.502 4.701 3.919 3.461 3.153 3.032 2.928 2.837 2.756 2.683 2.618 2.559 2.506 2.456 2.411
11               6.773 4.888 4.068 3.587 3.411 3.264 3.138 3.028 2.932 2.847 2.771 2.702 2.640 2.584
12                 7.031 5.066 4.211 3.932 3.709 3.525 3.370 3.238 3.124 3.023 2.934 2.855 2.783
13                   7.277 5.237 4.724 4.348 4.057 3.825 3.634 3.473 3.335 3.216 3.111 3.018
14                     7.514 6.186 5.401 4.869 4.378 4.178 3.937 3.738 3.571 3.429 3.305
15                       10.860 7.741 6.370 5.559 5.009 4.606 4.294 4.045 3.804 3.667


グラフ
図.2 補正N値、応力比、せん断ひずみの相関性(時松ら1996)



グラフ
図.3 図.2から求めたlogδ−logNa関係

 また、建築基礎構造設計指針によると、補正係数Naを次の式で与えている。

式

   ここに、N:測定N値
      σZ´:深さZにおける有効応力
  ΔN:N値の増加分
 ΔNは細粒土分含有率FCから、図.4で求める。
この図においてFC<40(%)の範囲であれば、図.5の関係に置き換えても大きな誤差はない。これを式にして、補正N値、Naを計算する式に拡大すると、式(10)および式(11)となる。
   ΔN=6.1logFC・・・・・(10)

式

 ブレードパイルを埋設しない状態での液状化による沈下量をS、埋設した状態での沈下量をS´とすると、ブレードパイルによる沈下量抑制効果は、つぎの式で表される。

式

ここに、A:基礎底面積
   AP:杭1本の断面積
    n:杭本数
グラフ
図.4 細粒土分含有率と増加分N値

グラフ
図.5 FCからΔNを求める図(FC<40%)

5.最後に
 ここに提案したブレードパイルによる液状化対策の設計方法(杭の本数と間隔)は、ブレードパイルのもう一つの特質を明らかにできたものであると考える。これがブレードパイルを普及する助けになれば幸いである。

参考文献
1) 小松田精吉他:砂分含有率μcから透水係数を概算する式の提案、第31回地盤工学研究会講演集、pp.2165〜2166,1996.
2) 時松孝次他:液状化判定方法と実際の現象、基礎工、Vol.24,No.11,pp.36〜41,1996

グラフ
施工前

グラフ
施工状況

グラフ
施工後


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