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 寄 稿 

植物資源と水資源は地球の未来を左右する

農山村振興コンサルタント 大沢 章



1.植物があっての地球
イラスト  今からおよそ35億年前に海の中にあった植物がだんだん進化して陸地に進出し、地球上に生育している植物は、高等植物だけでも25万種が知られ、作物の保存植物遺伝資源は4,415,700種あって地球の生態系を守りながら私達や動植物の生活を支えている。今各地で自然と生命の尊さを学ぶ運動が行なわれているが、植物や水のような天恵物は、いくらでもあるように思われがちである。
 21世紀半ば以降には、農林水産省農業環境技術研究所の推定では、地球温暖化によって主要穀物類栽培適地が半減するというショッキングな事実が明らかになっている。


2.水資源の大切さを知る年
 2003年は、「国際淡水の年」である。地球の水は海水が97.5%、淡水が2.5%である。今世界人口の6分の1にあたる11億人は水不足で悩んでおり、毎年不衛生な水を飲んで6,000人以上の人が死亡していると言われている。現在31カ国が水不足であるが、2025年には48カ国が不足状態になると予想されている。
 わが国でも夏になると四国では川に水が無い状態が続くことがあるし、東京などでも不足の時が度々ある。年間300mmしか雨が降らないイランなどでは砂漠に掘った井戸が涸れ、一番大切なものは水であると言われる。水が無くても生きる植物のターゴ(アカザ科)を植える知恵は、わが国では考えられない。
 キリマンジャロ(5,895m)の万年雪もあと20年で消滅するとも言われている。わが国でも間接的には水も3億7千人分輸入している。淡水の年に当り、郷土の美しい水と安全で安心な水資源を見直し再認識すべきである。県下各地にある清水・清流などを見直し地域おこしに役立てることが求められている。

3.ふくしまの銘泉を掘り起こせ
 本県各地に銘泉が沢山残っている。1987年只見町の村おこし事業で銘泉選びを行なったところ、応募総数37ヶ所あって銘水10選が決まった。
 美味で健康な水を選ぶにはミネラルを含む度合pH・水温など大変難しいが、健康な水とはミネラルのバランスが水質を左右することが分かった。pH は7内外でバラツキがなく、水温は9〜10℃の冷たい水が多かった。  会津山地の飯豊山や磐梯山の山麓には、良質な伏流水が湧き、ワサビやオランダガラシなど水生植物の栽培が有望と思われる。
 最近は、天然水でも人為汚染の影響が各所に見られ、水質分析をすると飲料に適さない湧水も多くなったが、本県の山地には良質な湧水が各所に残っている。植物資源が関西地方と比べると10倍以上あり、水の流れも地勢が急峻なため自然浄化作用が強く、空気中からの酸素の供給が十分になり、有機物の分解が進み水質のよい湧水が多いものと思われる。また未開発地域の清流についても、人為的影響による汚染度が少なく良質の天然水に恵まれている。
 開発地域の河川は人為汚染度が高く、BOD(生物化学的酸素要量)という言葉が始めて法律の条文に登場したのが昭和46年の「水質汚濁防止法」で、工場や都市からの排水・生活廃水などが規制され、だんだん水質は持ち直してきたが、汚れた川はいつ息を吹き返すか課題である。この時ふくしまの山奥に湧き出る清らかで美しい水は郷土の宝である。これから郷土の自然環境を守り、安全で美しく健康によい水をいつまでも残したいものである。
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4.水資源と食糧生産
 人間の生活に必要な水を供給している河川・湖沼・地下水・降雨水を水資源と呼んでいるが、わが国の降水量は世界平均年降水量の約1.8倍と多い。利用量は876億m3で農業用水・工業用水・生活用水に使われている。
 水資源と食糧生産には深い関係があり、今わが国の食糧自給率は40%(平成14年12月農林水産省発表)まで低下し、消費量の60%を輸入に依存しており輸入先進国の最低である。一方、世界の食糧需給は、人口が2050年には現在の約1.5倍に見込まれ、それに砂漠化や開発化等により毎年300万haの農地が消えると言われ、地球規模の食糧不足が予想されている。
 食糧の生産を高め完全な自給力を保つことは、食糧事情の不安を取り除き安心と農業振興につながる。実現には新たな「食と農」の再生プランや水資源などの利用と枠組みの構築が必要であろう。

日本の水収支国土庁資料より
降 水 量 6,500億m3
蒸発散量 2,500億m3


利 用 量
農業用水 570億m3
工業用水 183億m3
生活用水 123億m3
海へ流出 (洪水も含む)4,000億m3
地 下 水 89億m3


5.環境保全型農業を進めよ
 数年前韓国の農林部長官が、2004年までに全国の4分の1の耕地を環境保全型農業へ転換すると宣言し、世間を驚かしたことがある。
 わが国には530万haの耕地があって毎年1億トン以上有機物を分解する環境浄化能力があることが知られている。わが国の有機性廃棄物は1億4,000万トンも発生しており、有効活用すれば土地能力を高め環境浄化に役立ち、水や土地、生き物の生態系を守ることと安全な食糧生産が見込まれるので大きな役割がある。
 (社)農村環境整備センターでは、「田んぼの学校」で田んぼの生き物調査を実施したところ、田んぼの周りに約300種の淡水魚が確認された。今は生物と共存する環境浄化が求められ大変重要な役割を果たしている。

**** 著 者 紹 介 ****
大沢 章(おおさわあきら)
福島県福島市在住
◆主な経歴
農山村振興コンサルタント
国「食と農」の応援団
 ホームページhttp://www.ruralnet.or.jp/ouen/
国地域活性化センターアドバイザー
県産業おこしアドバイザー
農業支援マイスター
測量士、執筆家
元福島県職員(試験場、農業短大等)

◆主な著書
身近な食べ物健康法 歴史春秋出版
ふくしまの果実酒 農山漁村文化協会
木の実栽培全科 農山漁村文化協会
山菜栽培全科 農山漁村文化協会
山の幸利用百科 農山漁村文化協会
ふくしまの山菜ときのこ 福島民報社
福島の薬草 (共著)福島県薬剤師会
野草の活用 日本園芸協会
日本料理材料大辞典 (共著)学研
他多数

◆ 主な連載執筆(1年以上)
民報、民友新聞社
農業 農友
園芸と生活(東京)
特産情報紙(東京)
福島県経済研究所
農耕と園芸(東京)
現代農業(東京)

◆ 主な産業おこし報告書及び意見書
山村振興コンサルタント意見書
産品開発のための資源調査と活用
新しい特産物の開発手法
新たな産業おこしを目指して
地域特産品の開発手法
資源調査報告書
資源調査と活用法

:国連は2003年を「国際淡水の年」と宣言し、今後深刻化が予想されている淡水資源問題や淡水の生物の保護などに国際的に取り組んでゆく方針を決めた。3月16日から京都・滋賀・大阪で開催された「第3回世界水フォーラム」(関連記事P.11に掲載)も「淡水の年」の重要な事業の一つである。

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