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私の山紀行 第4回『晩秋の燧ヶ岳』  

代表取締役社長 佐藤 正基
(RCCM 土質及び基礎)

 燧ヶ岳は、尾瀬を代表する山で東北以北の最高峰です。山並は標高が2,356mの柴安(シバヤスグラ)を筆頭に三角点の置かれている俎(マナイタグラ)、他に御池岳・赤ナグレ岳・ミノブチ岳からなります。尾瀬沼そして尾瀬ヶ原の生みの親でもある燧ヶ岳は、尾瀬で最も新しい火山でもあります。尾瀬沼から眺望する燧ヶ岳の山頂部は、度重なる噴火や爆発のため複雑な形をしており、向かって右側の稜線は裾の長い富士山型であるのに対し、左側は凸型の曲線であり噴火時期の違いそして噴出物の性質が違うことを示しています。
 尾瀬沼には、20数年前に尾瀬沼ビジターセンター建設工事における地質調査に携わったことで初めてこの地を訪れる機会を得ました。ここに一週間滞在し、朝もやの尾瀬沼そして夕日に映える燧ヶ岳といった大自然が作り出す美しくダイナミックな風景に魅了されました。その後も幾度となくこの地を訪れ、いつしか燧ヶ岳に登りたいという思いが登山を始めた原因の一つかもしれません。登山を始めた2000年夏以降、幾度か燧ヶ岳に登っていますが、今もって新たな感動を与えてくれる山それが燧ヶ岳です。そんな山紀行から10月晩秋の燧ヶ岳を紹介します。



 2004年10月16日(土)、前日の予報では久々に快晴になることから、1年ぶりに燧ヶ岳の秋を満喫することに。郡山の自宅を午前4時にスタート。桧枝岐村では青空だったのに、御池駐車場へ上るほどガスが濃くなってくる。6時40分に駐車場に到着し準備をしていると、栃木から来たという団体が頂上を見上げなにやら思案をしている様子。つられて見上げると頂上付近がうっすらと雪化粧している。この状況から、軽アイゼンを持ち合わせていないと迷っているらしい。
 湿原上の木道そして最後のガレ場に十分注意しなければと思いつつ、午前7時4分に広い駐車場を突きって登山道へ。燧裏林道に続く木道を少し行くとすぐに燧ヶ岳の分岐となる。登山道は、薄暗いブナ林の中の登りでぬかるんだ場所が随所にあり、木の根や大岩が露出し大変歩きにくい。気温は4℃であるが、急登そして急登のため、時間とともにうっすら汗が滲んでくる。黙々と登り約47分で視界が開け第一の湿原、広沢田代となる。やはり木道は完全に凍結し、朝日を浴びて反射している。
軽アイゼンを装着している人を横目に、足下に注意して木道を進み薄暗いブナ林の中の悪路へ。いつもこの登山道には苦しめられるが、御池ルートはすばらしい湿原を二つ通るため、肉体的にも気分的にも大きな疲労を感じずに登ることが出来る。悪戦苦闘し小ピークに登りつくと、再び視界が開け熊沢田代(表紙 写真)が広がっている。熊沢田代は、燧ヶ岳とその前面に二つの池そして木道が印象的な湿原であり、代表的な風景になっている。その中央にはベンチが設置されており、登山開始から1時間29分で到達する。草紅葉と地塘そして周辺の山々の風景に心が癒され、休みたいという気持ちになるものの、足早に湿原を後に再び樹林帯へ。やがて道はササの中を進むようになると、頂上直下の難所、涸れ沢のようなガレ場に到達する。それでなくとも慎重を要するガレ場に雪が積もっていることから、さらに慎重に足を運び登っていく。周囲のササも低く大きな岩が目に付くようになり、大岩を乗り越えれば2時間31分(午前9時35分)で俎の頂(2346m)に辿り着く。山頂は、御池そして尾瀬沼から登ってきた人たちで人・人・人。休む場所もなく一息入れた後、西の方向目前に聳える燧ヶ岳の最高峰柴安(2356メートル)を目指す。柴安へは、一旦岩場を50mほど下りやや広い鞍部に出てから再び岩の間を60m登ることになる。急登に喘ぎながら俎_から16分そして登山開始から2時間47分の午前9時53分に最高峰に到達する。まだ昼食には、早いことからコーヒーと菓子でしばし素晴らしい眺 望を堪能することに。周囲を見渡せば、会津駒ヶ岳,今登ってきた俎,男体山や奥白根山をはじめとする日光連山、はるか彼方に富士山、尾瀬のもう一つの主役である至仏山が黄金に輝く尾瀬ヶ原の西南にたおやかな山容を見せている。そして驚いたことに、2004年9月14日に活動を再開した浅間山の噴煙まで望むことが出来た。冷たい風にすっかり体が冷え、30分で展望の頂を後に再び俎へ歩き出す。昼食は尾瀬沼の展望に適しているミノブチ岳山頂とし、俎から長英新道を。柴安から39分(午前11時2分)で昼食場所、ここは中間点だけあって 人もまばらなことから、のんびりビールと温かい力うどんで約40分間再び風景を堪能することに。まだまだ時間的に余裕があることから、お気に入りの三平下から燧ヶ岳の全容を望むため長英新道を尾瀬沼まで軽快に下り、尾瀬沼ビジターセンターそして木道を経て、三平下へ。三平下には午後1時44分に到着し、燧ヶ岳の全容を眺めながらホットコーヒーで本日の山行を振り返る。帰りたくないという想いを振り切り沼山峠へ、午後3時05分に到着しバスで御池へ戻る。そして、快い疲れと満足感を得ながら早々と燧の湯へ。
御池〜柴安 2時間47分
柴安〜三平下経由沼山峠 3時間44分
(総休憩1時間30分を除く)










 


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