福島県の湧水シリーズ(その24) |
【所在地】 西白河郡西郷村地内
1.堀川と堀川ダム
堀川は那須火山群の北東を占める赤面山(1701.1m)の東斜面から流れ出し、西郷村芝原・小田倉を経て阿武隈川に合流する延長約20km、流域面積41km2の阿武隈川水系の1級河川です。堀川の源流部を横切って那須甲子有料道路が通じ、沿線には白河高原ゴルフ場・那須甲子少年自然の家・白河高原スキー場(現在は閉鎖されている)などのスポーツ・休養施設が建設されています。
源流域近くにある堀川ダムは、白河地方一帯の水道水供給源になっています。堤高57m、集水面積15.2km2のロックフィルダムで、利水容量の大部分が上水道用に使用され、福島県内の上水道用ダムのなかでは、特に水質が良い水源として知られています。
2.報徳開拓専用水道水源の湧水
堀川ダムから本流を約3.5km遡ると、堀川は3本の支流に分かれます。このうち北側から合流する沢水が赤面山山頂直下から流れ出している本流で、流量が比較的少ない。中央の沢水は白河高原スキー場ゲレンデから流れ出し、集水面積は小さいが水量は最も多い。南側から合流する沢水は、深い谷を刻んでいますが、水量は最も少ないようです。 3.堀川源流域の表流水と湧水の水質 表1 水質試験結果(2005年11月8日採水)
1.1 Ca(HCO3)2
、Mg(HCO3)2型の水質組成で、浸透から湧出までの時間が短く、浅層に帯水する地下水(循環性地下水)の大半がこの型に属する。 図1 トリリニアダイアグラム 4.報徳湧水の湧出機構 5.報徳湧水への案内 2006年5月に一部訂正をいたしました。 ※1 新協地水(株) 代表取締役会長
報徳開拓専用水道の水源になっている湧水(報徳湧水と呼ぶ)は、中央の沢の左岸山腹から湧出していますが、水道の取水施設に覆われているため、直接湧出口を確認することは出来ません。取水施設の下を潜った湧水が、水源からのオーバーフロー水に途中から合流しています。途中からの湧水とオーバーフローを合わせると、日量2000〜3000m3程度の流量です。水道として取水されている水量が850m3程度とされているので、この地点から湧出する総量は日量3000〜4000m3程度に達することになります。1箇所からの湧水としては、福島県内有数の規模と言って良いと思われます。
報徳湧水
源流域の3本の沢水と報徳湧水(中央の沢水の上流)の主要イオンを分析して水質を比較します。
トリリニアダイヤグラムに表示すると図−1のようになり、いずれもTの領域にプロットされます。3つの沢水ともすぐその上流で循環型の地下水によって涵養されている可能性を示します。
図−2のヘキサダイヤグラムでは、いずれの沢水も溶存成分が少なく、非常にきれいな水であることを暗示しています。報徳湧水は沢水に比べると炭酸水素イオンとカルシウムイオンの量が多いのが目立ちますが、絶対値で見ると火山地域の湧水の中では特に多いわけではなく、他のイオンが少ないので目立っているのです。この成分が相対的に多いことは、水のおいしさという点でプラスに働くと思われます。
単位
報徳湧水
北側の沢水
中央の沢水
南側の沢水
mg/L
0.95
0.41
0.95
1.3
mg/L
1未満
1.1
1.3
mg/L
2.2
2.1
2.5
2.9
mg/L
49.0
16.0
18.0
20.0
mg/L
2.2
1.9
1.9
1.9
mg/L
1未満
1未満
1未満
1未満
mg/L
9.5
3.2
3.8
4.0
mg/L
1.1
0.73
0.82
0.95
領域
組成による分類
水の種類
I
重炭酸カルシウム型
Ca(HCO3)2型
石灰岩地域の地下水は典型的にこの型を示す。
II
重炭酸ナトリウム型
Na(HCO3)型Na(HCO3)型の水質組成で、地表から比較的深い位置にあり、岩盤中の亀裂に存在する地下水のように浸透から湧出までの時間が長い地下水がこの型に属する。
III
非重炭酸カルシウム型
CaSO4又はCaCl2型CaCl2又はCaSO4型の水質組成で、温泉水・鉱泉水および化石塩水等がこの型に属する。一般の河川水・地下水では特殊なものであり、温泉水や工業排水等の混入が考えられる。
IV
非重炭酸ナトリウム型
Na2SO4又はNaCl型Na2SO4又はNaCl型の水質組成で、海水および海水が混入した地下水・温泉水等がこの型に属する。
V
中間型
I〜IVの中間的な型で、河川水・伏流水(河川と河床下にある透水層が交わる場所を流れる水で、極めて浅い位置にある地下水といえる)、および循環性地下水の多くがこの型に属する。
○報徳湧水 ●北側の沢水 □中央の沢水 ■南側の沢水
図2 ヘキサダイヤグラム
報徳湧水は、安山岩〜石英安山岩の巨大な岩塊を含む大規模な崩落土砂の中から湧出しています。湧出地点の上を走る那須甲子有料道路の上方には厚い安山岩質〜石英安山岩質溶岩流が分布しており、崩落土砂はこの溶岩流が大規模に崩壊し、地すべり的に移動して形成されたものです。三本槍岳を噴出源とするこの溶岩流は開口した割れ目がよく発達していて、降雨や融雪水は割れ目に浸透して地下水になりやすいと考えられます。
3本の沢の合流点の谷底及び南側の沢が刻んだ深い谷の側壁には、石英安山岩質火砕流堆積物が溶岩流の下に露出しています。この火砕流堆積物は塊状で割れ目に乏しく、上位の溶岩流や崩落土砂が地下水の帯水層であるのに対し、不透水性の基盤をなしています。
報徳湧水は、赤面山東斜面の降雨や融雪水が溶岩の割れ目を通って地下浸透し、火砕流堆積物上面の凹所に集まりながら流れ下り、崩落土砂の中に入って土砂が薄くなったところで地表に湧出したものです。
国道289号線を甲子温泉方向に向かい、川谷郵便局を左に見てその先200mの三叉路を左折すると約2kmで堀川ダムのダムサイトに着きます。管理事務所の付近は小公園になっており、見晴らしが良くダム湖を一望することが出来ます。ここから仰ぎ見る赤面山や旭岳は実に雄大で、新緑の頃はまぶしい白銀の山を背景に若葉が一層鮮やかに映え、秋には紅葉が湖面に映って二重のボリュームを感じさせます。雪割橋や新甲子遊歩道、西の郷遊歩道など、阿武隈川本流沿いには多くのビューポイントが知られていますが、堀川ダムもぜひ訪れてほしいポイントです。
ダム湖にかかる紅葉大橋を渡って3kmほど本流沿いの道路を上ると、最初のヘアピンカーブがあります。カーブが一番膨らむところの左手に車が入れる小さな広場があり、そこに報徳開拓専用水道の管路を示す標識が立っています。
そこから急な山道を喘ぎながら登ると報徳湧水に達しますが車両進入禁止となっており、湧出口は取水施設に覆われているため直接見ることは出来ません。また、水源施設のため一般の方は立ち入り出来ません。堀川ダムから1キロほど入った所に水道の減圧施設があり、そこでオーバーフローした湧水が側溝脇の導水管で採水可能となっています。興味のある方はそこで採水をしてはいかがでしょうか。採水に訪れた方はマナーを守ることはもちろん、付近にゴミを捨てたり違法駐車で地域の皆様のご迷惑になる行為は厳に慎むようお願いいたします。
配慮なく湧水をご案内する記事を書きましたことで報徳水路会の皆様にたいへんご迷惑をおかけしました。あらためてお詫び申し上げます。
※2 新協地水(株) 技術部
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