「福島県の湧水シリーズ(その2)」
小野川湧水群
企画推進室 五月女玲子


・まえがき
・百貫清水(小野川源流)
・小野川湧水
・笹清水(小冷水林道沿いの湧水)
・資料:「水質試験結果報告書」
 

 小野川湖は、福島県のほぼ中央部にある磐梯火山の北東側にあり、1888年の磐梯山噴火により発生した岩屑なだれが、小野川をせき止めて形成した裏磐梯湖沼群の1つです。小野川は、大早稲沢山(標高1425m)に源を発する小野川本流と吾妻火山の1つ西大巓(標高1982m)に源を発する不動沢より構成されています。小野川流域には、吾妻火山によってもたらされた溶岩などの火山噴出物が分布し、その中から湧出する多数の湧水が見られ、これらの湧水が小野川湧水群と呼ばれています。そのうち主な3つの湧水について紹介します。
小野川湖周辺地図
 
・百貫清水(小野川源流)
名水「百貫清水」案内板

「百貫清水」
水底より砂がふき出ている
 五色沼入り口よりグランデコへ通じる小野川林道を登り、不動沢を渡った500m先に「早稲沢・デコ平自然ふれあい歩道5.3km」入り口の駐車場(P3)があります。駐車場から歩道を約1.5kmほど歩いたところに小野川の源流となっている直径7m程の泉があり、水底より数カ所、砂を吐き出すように地下水が湧出しています。
 この泉は、百貫清水と呼ばれ、案内板によると「その昔 百貫文の値以上に価値があるとたたえられた」ことから名づけられたそうです。昭和60年に国から名水百選の一つに認定されました。水温は、7.1℃、pH7.31、電気伝導度59.8μS/cmでした(水質分析結果表参照)。備え付けの、3m程もある長いひしゃくですくって飲んでみた湧水の味は、すっきりした味でした。湧き出し口で舞い上がる砂をルーペで見てみると、無色透明で冷たい感じのする石英、箱形をしビールびんのようなあめ色をしたシソ輝石、きれいなスプライトのびん(清涼飲料で知られた)のような黄緑色した普通輝石、などの鉱物が見られました。これらの砂はどうやら火山灰を起因とするようです。また、帰りの歩道を案内板に従い左手に行くと、デコ平湿原地があり、水芭蕉、しゃくなげ、ワタスゲ、モウセンゴケといった湿原の高山植物がみられます。
 
・小野川湧水
湧水を予感させる沢
上流800m程先には小野川湧水
 不動沢と小野川合流点より不動沢沿いに約150mほど上流に行ったところで、右手に高さ10m程の、丸い石に緑色のコケが生え湧水を予感させる沢が流れています。この沢が湧水を予感させるのは、コケばかりではありません。沢の水をさわってみると冷たく、これまで歩いてきた沢の水温(10.2℃)、電気伝導度(60.1μS/cm)と違っていたので、この沢水は、湧水ではないかと、心密かに確信しました。この沢の水温は、7.3℃、電気伝導度は、36.4μS/cmでした。この沢の源流をたどるため、上がって行くとなだらかな地形となり、安山岩の岩塊がごろごろし、沢水は岩塊の下を潜ったり地表に出たりしながらながれています。そしてさらに300m程上がって行くと、急崖に当たりました。その下の大きな安山岩の下の2カ所より、地下水が湧出していました。水温は、6.0℃、pH6.25,電気伝導度34.3μS/cmでした(水質分析結果表参照)。湧水は、手がしびれるほど冷たく、飲んでみると舌に渋みが残る味がしました。鉄分が少ないことから、硫酸イオンによるものかもしれません。
 
・笹清水(小冷水林道沿いの湧水)
上流の不動沢にみられる滝
「入の滝」
 小野川本流とは別に小野川の西側、小野川湖に注ぐ小冷水沢があり、この沢沿いには、木材を運びだすためにつくられたという小冷水林道があります。不動滝駐車場(P1)より林道を登ること約1km、林道沿いの溶岩の間から数カ所の湧水があり、合わせて毎分200リットル程の地下水が湧出しています。この湧水は飲料水として利用されており、一部「笹清水」として販売されているそうです。水温は、7.2℃、pH7.10、電気伝導度48.6μS/cmでした(水質分析結果表参照)。湧水のわきに置いてあるコップで湧水を口に含んでみると、水道水にみられるカルキ臭さはなく、さわやかな味がしました。
 また、小野川には、大きな滝が2カ所にあることが知られています。下流の滝(不動滝)と、そこより約1.5km上流の不動沢にみられる滝(入の滝)です。これらの滝は、ともに高さが約50m程あり、安山岩質溶岩の急崖から流れ落ちています。
 朝日新聞10月16日の報道によると、「小野川湧水」の流域水質がこの10年間で、大幅に悪化したということが県自然保護協会の水質問題ワーキンググループの調査で判明したということですが、このような地道な活動に頭が下がる思いです。私共の現地踏査や水質分析では、この報道を直接裏付けるデーターはえられませんでしたが、私達も自然環境の変化に関心をもち自然保護の一翼をにないたいと思います。
小冷水林道沿いにみられる湧水
「笹清水」

 この湧水の取材にあたり、裏磐梯観光案内所(TEL 0241-23-3111)の方からは、いろいろ教えていただきました。ここに感謝の意を表します。
(「土と水」編集委員)
 

・資料
表1 水質試験結果報告書
採水年月日 平成9年11月6日
(木)
平成9年10月23日
(木)
平成9年11月 6日
(木)
採水場所 百貫清水 小野川湧水 笹清水
現地測定 天気 くもり 晴れ くもり
水温 [度C] 7.1 6.5 7.2
pH値 [pH] 7.31 6.56 7.10
電気伝導度 [] 59.8 36.7 48.6
試験項目 測定
機器
単位 基準値 測定値 測定値 測定値
亜硝酸性窒素
及び硝酸性窒素
F.S. [] 10 以下 0.19 0.28 0.27
塩素イオン F.S. [] 200 以下 1.64 0.95 1.32
pH値 pH計 [pH] 5.8〜8.6 7.0 6.3 6.7
色度 DR   5度以下 3ユニット 0ユニット 2ユニット
濁度 DR   2度以下 1FTU 0FTU 0FTU
全鉄 DR [] 0.3 以下 0.02 0.02 0.06
総硬度 DR [] 300 以下 21 14 18
カルシウム DR [] 5.5 3.5 4.5
マグネシウム DR [] 1.8 1.0 1.5
全マンガン DR [] 0.05 以下 0.001 検出されない 0.001
アンモニア性窒素 F.S. [] 0.22 0.18 0.21
試験実施日 11/6〜11/12 10/23〜11/1 11/6〜11/12
新協地水株式会社・研究開発室


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