技術士法第2条(技術士の定義)によると、技術士とは、「登録を受け、技術士の名称を用いて、科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項について計画、研究、設計、分析、試験、評価、またはこれらの指導業務を行う者をいう」となっています。すなわち、科学技術に関して高度な専門的能力をもって研究開発、問題解決のためのコンサルティングや指導などにあたる専門技術者であるといえます。
このように技術に関する資格としては、このように「技術士法」という法律まであることからも「他とはちょっと違う」資格だと言う雰囲気が漂ってきます。
一口に技術士といっても、その専門技術分野は19部門にまたがっていますので、技術士となった人は「○○部門」の技術士と名乗らなければいけないことになっています。例えば、弊社の業務が関わっている分野では、「建設部門」、「応用理学部門」、「水道部門」、「環境部門」などが主なところで、「化学部門」、「資源工学部門」、「農業部門」、「林業部門」といったところも関係がありそうです。
技術士が医師や弁護士、公認会計士、司法書士、弁理士、不動産鑑定士といった資格と違って、一般にあまり知られていない理由として、日本では技術コンサルタントと呼ばれる業態が生まれて日が浅く認知度が低いのに加え、活動範囲が官公庁や一部の企業の中に限定されていて表にでにくいことや、医師や弁護士のように特定分野の独占性があまりないというのも大きな理由でしょう。それでも、最近は積極的に技術士を活用しようという気運が高まってきていて、表1に示したように国は、業務上の特典や他の国家資格取得上の特典を設けていたり、企業の評価でも技術士がいる企業を高く評価する仕組みができています。海外業務ではAPEC地域の国家相互承認技術者の認定資格にもなる予定で、これからますます重要な資格になることでしょう。
昨年(平成9年度)の受験申込者は27,796人に達し、そのうち2,154名が「技術士第二次試験」に合格しています。この「技術士第二次試験」が技術士になるための試験で、学歴、国籍、等に関係なく実務経験7年で受験可能です。これに合格し、科学技術庁に登録すれば晴れて「技術士」と名乗れることになります。二次試験があるのですから、当然「技術士第一次試験」もあるわけですが、これは「技術士補」になるための試験です(学歴、経験に関係なく受験可。在学中でもOK)。「技術士補」になれば実務経験4年で「技術士第二次試験」の受験資格が得られます。試験についての詳細は、(社)日本技術士会や受験参考書の案内に譲りたいと思います。
所轄官庁 | 特典対象となる資格名称 | 技術士の技術部門 | 要 件 |
科学技術庁 | 原子炉等規制法に基づく原子力施設溶接検査員 | 機械、船舶、電気・電子、金属 | 第二次試験合格者で一定の実務経験を有する者 |
第一次および第二次試験合格者で一定の実務経験を有する者 | 全部門 | 原子炉等規制法に基づく廃棄確認員 | |
農林水産省 | 治山、林業事業に係る設計・調査・測量受注者(民有林) | 林業 | 技術士であること |
林業土木事業に係る設計・調査・測量受注者(国有林) | 林業 | 技術士であること | |
土地改良事業の審査のため、農水省が委嘱する専門家 | 農業 | 第二次試験合格者 | |
通商産業省 | 中小企業指導法による中小企業指導事業の技術指導者 | 全部門 | 技術士であること |
技術アドバイザー(中小企業の技術向上のための技術指導者) | 全部門 | 技術士であること | |
運輸省 | 設計管理者(鉄道土木、鉄道電気、鉄道車両) | 機械、電気・電子、建設 | 第二次試験合格者(独占業務) |
労働省 | 労働災害防止のために建設工事に参画させる者 | 建設 | 第二次試験合格者 |
建設省 | 宅地造成工事の技術的基準(擁壁、排水施設)の設計者 | 建設 | 第二次試験合格者 |
都市計画設計図作成者 | 建設、水道、衛生工学 | 第二次試験合格者 | |
公共下水道または流域下水道の設計または工事の監督・監理を行う者 | 水道 | 第二次試験合格者 | |
一般建設業の許可を受けようとする場合の許可要件資格該当専任者 | 機械、電気・電子、建設、水道、衛生工学、農業、林業 | 第二次試験合格者 | |
特定建設業の許可を受けようとする場合の許可要件資格該当専任者 | 機械、電気・電子、建設、水道、衛生工学、農業、林業 | 第二次試験合格者 | |
建設コンサルタントとして建設省に登録できる資格者 | 機械、建設、水道、農業、林業、応用理学 | 技術士であること(実質的独占業務) | |
地質調査業として建設省に登録できる資格者 | 建設、応用理学 | 技術士であること(実質的独占業務) | |
一級土木施工管理技士と同等の専門家と認定された者 | 建設、農業、林業 | 技術士であること | |
厚生省 建設省 |
公共下水道または流域下水道の維持管理を行う者 | 水道、衛生工学 | 第二次試験合格者 |
所轄官庁 | 特典対象となる資格名称 | 技術士の技術部門 | 要 件 |
通商産業省 | 特定工場における公害防止管理者(ばい煙、排水、騒音、粉塵) | 機械、化学、金属、水道、衛生工学、農業、応用理学 | 技術士(ただし、要試験免除講習受講) |
エネルギー管理士(熱管理、電気管理) | 機械、電気・電子、化学、金属 | 技術士(ただし、試験免除講習要受講) | |
運輸省 | 気象予報士 | 応用理学 | 技術士(3年以上予報業務に従事した者)学科試験免除 |
労働省 | 労働安全コンサルタント | 機械、船舶、航空・宇宙、電気・電子、化学、金属、資源工学、建設、農業、林業、経営工学 | 第二次試験合格者(筆記試験一部免除) |
労働衛生コンサルタント | 衛生工学 | 第二次試験合格者(筆記試験一部免除) | |
作業環境測定士 | 化学、金属、応用理学 | 第二次試験合格者(筆記試験一部免除) | |
建設省 | 一級管工事施工管理技士 | 機械、水道、衛生工学 | 第二次試験合格者(筆記試験免除) |
一級土木施工管理技士 | 建設、水道、農業、林業 | 第二次試験合格者(筆記試験免除) | |
一級電気工事施工管理技士 | 電気・電子、建設 | 第二次試験合格者(筆記試験免除) | |
一級造園施工管理技士 | 建設、農業、林業 | 第二次試験合格者(筆記試験免除) | |
土地区画整理士 | 建設 | 第二次試験合格者(第一次試験免除) | |
自治省 | 消防設備士 | 機械、電気・電子、化学、衛生工学 | 第二次試験合格者(筆記試験一部免除) |
表3 ある合格者の受験態勢
技術部門 | 建設部門(建設環境) 平成9年度合格 | |
---|---|---|
職業・年齢 | ゼネコン勤務(48歳) | |
受験のきっかけ | リストラ対策、自己啓発 | |
勉 強 の 方 法 | 事前準備 | ・多くの人に受験宣言。 ・受験参考書の買いあさり。 |
勉強時間 | 週8時間目安。筆記試験対策470時間、口頭試験対策130時間の合計600時間 | |
日常 | ・暗記は通勤電車の中。 ・社内の学会誌、業界誌を自分のところに回覧されるようにした。 ・新聞の切り抜き(一般紙)。 ・経験論文を手当たり次第に人に見せて修正し、感想を参考にした。 ・関係法案、法令などは直接全文入手。 ・パソコン通信、I-NETからの受験情報入手。 |
|
困ったこと | 家族の妨害(対策:家での勉強は金、土の深夜にした。家の雑用はしっかりやる)。 | |
アドバイス | ・絶対受かるという信念を持つ(だが、落ちても恥ずかしいとは思わないように)。 ・早く、きれいに、伝えたいことを読んでもらえるような文章がいつでも書けるように。 ・社会情勢と自分の技術部門との関わりを絶えず探ること。 ・経験論文の導入は非常に大事(ここで7、8割は決まる?)。・いま置かれている日常環境を最大限に利用せよ。 |
表4 平成9年度の面接試験内容
技術部門 | 建設(建設環境) | 応用理学(地質) | 情報工学(情報応用) | 応用理学(地質) |
---|---|---|---|---|
職業・年齢 | ゼネコン(48歳) | 公益法人(35歳) | 電力関係(32歳) | コンサル(55歳) |
質問内容 及び 試験官の数 | ・試験官は2人 ・受験の目的 ・体験論文の内容 ・経歴・職務内容 ・部門と社会情勢(人材確保問題) ・業務の今後 ・業務の失敗例 ・技術士の定義と義務 |
・試験官は3人 ・経験論文の内容 ・経歴・職務内容 ・自信の持てた仕事について ・業務の失敗例 ・筆記で選択しなかった問題の質問 ・選択した問題の自己評価と追加 ・部門と社会情勢(クリーンエネルギーについて) ・技術士の定義と義務 |
・試験官は2人 ・受験の目的 ・経歴・職務内容(約15分)→管理技術者として実際携わっていないと答えられない社会性も含めた質問 ・技術全般の質問(約10分)→全体に知識のバランスが取れているか ・技術士の定義と義務 |
・試験官は3人 ・受験の目的 ・経験論文の内容 ・筆記で選択しなかった問題の質問・部門と社会情勢 ・技術士の定義と義務 |
感想・反省 | ・体験論文のところで「本当に○○なのか?」という質問あり。ここが正念場。 ・社会情勢とのからみも情報収集が必要。題意を勘違いしてしまい窮地に。その後の信用回復に苦労した。 |
・筆記試験の内容で質問が変わるようだ。 ・面接はディベートではなく説得が大事。 ・筆記点数が低いとつっこみが激しい? ・無理に答えて支離滅裂になることが多かった。 |
・若いせいか、本当に技術責任者なのか疑われたようだ。 ・質問にムッとしてしまい顔にでた。 ・体験論文の直接質問はなし。むしろ、本当の知識なのか確認された。 |
・経験論文で経済性を訴えた点について、「結果的に安くなっただけじゃないの?」と否定的な質問。説得して納得させた。 ・分からないことははっきり分からないと言った。 |
結 果 | 合 格 | 不合格 | 不合格 | 合 格 |
技術士資格挑戦・取得雑感
応用理学部門(地質)の技術士を目指して準備を始めてから6年目、受験申し込み5回目、実際に受験したのが3回目にどうにか合格することができました。遅蒔きの結実でした。
口を開けば、技術技術という割には、たいした勉強もしていなかったので、合格するとは思っていなかったというのが、率直なところです。いまに至るまで私の技術者としての仕事は、技術士に求められる科学技術の高度な応用能力とは無関係で、失敗の多い泥臭いものがほとんどでした。徒に経験だけは積み重ねてきたつもりでしたが、科学技術の基礎知識・基本技術が身についていないと、常々思い知らされていただけに、いまだに技術士を名乗ってよいのか戸惑いを覚えています。
現在の心境は技術士になってうれしいというよりも、正直な話、これからが大変だという気持ちです。技術士法が期待している技術士像、世間の人々が期待する技術士像がどのようなものなのかをよく理解して行動しなければならず、自分の仕事のやり方をどのように戒め、改めるべきか、思い悩んでいるところです。
いま思うに、試験に合格できた要因は、次のようなことなのではないかと考えています。
@ 先輩技術士(建設部門 土質及び基礎)の指導と激励がなければ、技術士第二次試験合格どころか、まともに技術士に挑戦しようとも考えなかったでしょう。ついこの間まで、技術士になるためには、大きな会社に在籍してビッグプロジェクトに参加し、大きな成功を収めるか、あるいは、最先端の技術的知識を持って、最新鋭の機械や計測器を駆使して未解決の技術課題を解決する、等の経験が必要だと思い込んでいました。自分がこのような仕事に参加するチャンスはこれまでもほとんどなかったし、今後もありそうに思えなかったからです。
先輩技術士の指導を受けるなかで、そんな技術士に対する私の思い違いを指摘され、小さな日常の仕事の中に、技術士として評価されるテーマがあることに気づかされ、激励されました。専門分野の科学技術についての一般的な勉強だけでなく、技術士試験に合格するための、勉強のテクニックや、論文作成の観点も教えていただきました。このように先輩技術士の具体的な指導援助が、大きく私の合格を後押ししてくれたのは間違いがなく、とっても幸運なことでした。
A 技術士第二次試験の中で最大の難関とされる体験論文のテーマとして私が選んだのは、酒造用の水源井戸を守りながら下水道工事設計のための調査を進めた経験です。
この調査は、金額にして200万円程度のもので、この類の調査解析業務としてはむしろ小さい規模でした。特別な調査方法や手段を用いたわけではなく、難しい解析手法を取ったわけでもありません。私は調査計画を練り、調査作業の実務はその他の何人かがあたり、得られたデータをもとに、みんなで行った検討作業に加わったに過ぎません。この検討作業の議論の中において、多くの同僚の様々な経験(多くの失敗を含む)教訓が反映されていたので、私はそれを整理、理論化し、その現場の実情に合わせて適用する役割を担っただけです。
体験論文以外にも、私の試験における回答を支えた知識や技術の内容は、私個人だけのものではありませんでした。ほとんどが会社として携わってきた、様々な現場での様々な失敗や成功の体験、創意や工夫に基づく改良や合理化の知恵から学び取ったものです。
B 私は元来怠け者で、わき目もふらず勉強が出来るようなタイプではありません。実際に勉強したこともありません。仕事も遅く、要領が悪く、粗雑で忘れっぽいし、鈍感で何事も整理がつかないなど、当社の平均的な社員像に比べて、欠陥が非常に多い人間であることを自覚しています。私が試験に合格することができたのは、特別に能力があったわけでも、他に自慢できるような努力をしたからでもありません。ただ、様々な経験や教訓を整理し、記録として残してきたこと、自分の経験だけでなく、いろいろな現場の問題にも首を突っ込むように努めてきたことなどが、合格した要因の一つだったのかもしれません。
こんな私が技術士に合格できたということは、当社のような地方の小さな会社にいる技術者が日常的に処理している業務内容でも、十分に技術士になれることの証明です。特に、若い技術者は今から意識的に取り組めば、あまり時間がかからない間に合格できるだろうと思います。技術的な好奇心を絶えず持って、経験を理論的に整理できる習慣を身につけ、ちょっと工夫した着眼点を養うことが合格の秘訣です。
技術士資格の取得にあたり、私を支えてくれた多くの方々や小松田取締役をはじめとする同僚諸氏に厚く御礼を申し上げるとともに、多くの技術者が技術士を目指し、あるいは他の技術資格を目指して奮闘されることを切に願ってやみません。私は技術士という名前だけではなく、技術的にしっかりした責任ある仕事ができるよう,自らを律するとともに、技術的進歩のために微力を尽くす決意です。
社団法人 日本技術士会
〒105-0001 東京都港区虎ノ門4丁目1番20号
田中山ビル8F 電話03‐3459-1333(代)
(技術士に関する情報)
インターネットURL:
・科学技術庁 技術士関連情報
http://www.sta.go.jp/info/STA/gishi/welcome.html
・NIFTY Serve ライセンス資格フォーラム
FLIC/FLICS技術士資格会議室Home Page
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パソコン通信:
・ニフティサーブ 資格フォーラム:
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