水文学・水文地質学・地盤工学でのインターネットの活用(1)
水文地質コンサルタント アクアシステムズ研究所 代表
原田 和彦(技術士 応用理学部門 水文地質)

住 所: 〒184‐0003
    東京都小金井市緑町1-3-31 K.Yビル 1F
連絡先:Tel 042-383-5825 FAX & Tel 042-383-5818
E-Mail:kharad@pp.iij4u.or.jp
専 門: 水文地質、水資源計画、水文環境、地下水、地盤など
    水と土の調査解析と評価

1.インターネットとは
マック  皆さんはインターネットというと何を思い浮かべますか。ほとんどの方は会社や官庁のホームページ(HP)を思い浮かべるのではないでしょうか。3年ほど前のマスコミ主導のインターネット空騒ぎブームは去りましたが、今はもうより身近なものとなって、ビジネスマンの名刺にイーメイル(E-Mail)のアドレスが刷り込んであることが当たり前になっていますので、電子メールのことかと思っている方も多いでしょう。
 どれも正しいのですが、全てではありません。昨今はインターネットで買い物をする主婦の方も増え、個人の家庭まで入り込んでいます。米国では二人に一人は既にインターネットを利用していると言われ、パソコンとインターネットなしでは仕事も余暇も買い物、最近ではメグ・ライアンとトム・ハンクス主演の映画「ユーガットメール」のように恋愛もはじめられない世界になりそうですが、最後はフェースツゥフェースです。
 このように急速に普及するインターネットですが、元々は冷戦の産物として産み出されたもので、全米の大学や軍、政府の研究機関を結んだコンピュータ・ネットワークが元になっています。一般にネットワークでは電話の交換機のような、通信を制御する機器が必要ですが、アルパネット(ARPANET)と言うこのシステムでは個々のコンピュータにプロトコル(TCP/IP)という通信のための手順書(約束事集)を完備することで、交換機なしでコンピュータ同士を直接結びつけることが出来るようになり、また、通信もデジタル情報をパケットという郵便の小包のような通信単位に分割して送り、到着したコンピュータで元の形に復元するような仕組みになりました。ですから、インターネットでは全体を制御するためのコンピュータは存在せず、ある特定の機器やコンピュータが核攻撃で破壊されても、ネットワーク自体は生き残ることが出来るのです。
 冷戦が終了した段階でこのシステムを全ての大学や研究所に開放することになり、また研究者や学生は大学や研究機関を去った後でも、ネットワークを利用できないかと考えるようになりました。そこで米国政府はベンチャー企業を育成する意味もあって、ネットワークを一般に開放することにしましたが、このシステムではテルネット(telnet)と呼ばれる特定のコマンドで必要なコンピュータを呼び出し、必要な指令を与えることで情報を入手することが可能でした。さらに、1980年代にはパソコン同士を結ぶ通信も発達し、一般の家庭からもプロバイダーと呼ばれる通信業者のネットワークに加入すれば、このネットを経由して、インターネットも一部利用できるようになりました。
しかし、このネットワークではコンピュータやテルネットに精通した研究者や技術者しか利用できず、不便でしたので、より便利な閲覧ソフト‐ブラウザがイリノイ大学の学生によって作られました。このモザイクと言うソフトは無料(フリー)でしたので、瞬く間に研究者や学生の間にインターネットは普及しました。
 モザイクを作成した学生たちはその後ネットスケープ(Netscape Communicatorの配布会社)という会社を起こし、大成功を収めました。また、html(ハイパーテキスト メイクアップ ランゲッジ)がスイスの研究者によって考案され、ドキュメントにタグをつけることで、このタグをクリックするだけで、必要なホームページにアクセスすることが可能になり、より便利になりました。
 それでもまだ、一般人はパソコン通信、研究者はインターネットと住み分けていましたが、パソコン通信事業者がインターネットのプロバイダーも兼務するようになると、インターネットは爆発的に普及しはじめました。それが4年ほど前のことですので、インターネットの普及が如何に急速に進んだかお判りと思います。



2.インターネットを使うには
モデム  インターネットを始めるためにはまず、コンピュータとモデムやルーターなど外部と通信するための環境が必要です。現在、販売されているパソコンはWindows98というオペレーション・システムを積んだものが多いのですが、今回はWindows95で一台のパソコンが直接、外部と通信する通信環境、ダイアルアップ環境で話を進めます。
 従来から使っていた電話・FAXのモジュラーにモデム(内蔵モデム・外付けモデム)あるいはルーター(ISDN)の端子を挿入し、モデムのシリアル端子にケーブルを接続してパソコンのシリアル・ポートに繋ぎます。


モデムポート  ケーブルを接続したら、パソコンを起動して、ウインドウズのコントロール・パネルで[モデム]の[プロパティー]をクリックし、接続するポートの設定を行います。つぎに[追加]をクリックして、モデム・ソフトを指定します。
 つぎに、コントロールパネルの[インターネット]のアイコンをクリックして、[プロパティ]の接続ボタンを押して「インターネット接続ウイザード」を起動し、契約したプロバイダーのメールアカウント、メールアドレス、メールサーバー名などを設定します。
 このアカウント・コードやメールサーバー名などの設定が一番面倒ですが、新しいパソコンではインターネット設定のためのウィザードが必ず組み込んでありますので、これを利用すれば、オンラインでプロバイダーへの契約申し込みが出来るようになっていて、メールアカウントやアドレス・コードの設定も質問に答える形で、簡単にインターネットに接続できるようになっています。


画面  それから、パソコン通信は会員制で会員以外の者は入れない仕組みですが、インターネットの世界は世界中のコンピュータが回線で直接繋がる仕組みで、中心で統括して管理するコンピュータは存在しない分散型、自立型のネットワークです。ただし、個人が自宅や会社のパソコンからインターネットに接続するにはプロバイダーに加入して、インターネットへのゲートを確保する必要があります。今ではニフティー・サーブやアメリカン・オンライン(AOL)ようなパソコン通信事業とプロバイダー事業の機能を併せ持った事業者も登場していますし、アメリカには広告収入に依存し、個人加入者は無料で接続できるプロバイダーもあります。また、地方では商工会議所や市役所などの公的な機関が地域振興の一環として、安い料金でインターネット・サービスを提供しています。
 インターネットを活用し、必要な情報を素早く入手するためには、検索機能の活用が重要で、色々なサーチ・エンジンがありますが、自分の専門分野に強い検索エンジンを選ぶことが大事です。日本語以外のサーチ・エンジンには次のようなものがありますが、地球科学技術関連ではアルタビスタ、GISL、インフォシークがお勧めです。


Subject and Object Searches
● Alta Vista < http://www.altavista.com/ >
○ eXcite  ○ Netsearch
● Government Information Locator Service  (GILS)  USGS host < http://info.er.usgs.gov/public/gils/index.html >
○ HotBot  ○ Lycos
● infoseek < http://infoseek.go.com/ >
○ Magellan Internet Guide  ○ Yahoo!


3.有用なHPの紹介
 インターネットにアクセスすることで、現在では水文地質学や水文学、地盤工学に関するソフトや最新の研究結果を利用することが出来ます。特に米国の政府研究機関や大学では積極的にプログラムなどのソースコードやデータをフリーで公開していますので、バクなどもなく、安心して世界最新の高度なソフトを活用できます。その中でも指導的な役割を果たしきた米国地質調査所(USGS)や環境保護庁(USEPA)、陸軍工兵隊水路試験所(USACE-WES)、水文学技術研究センター(USACE-HEC)、独立非営利研究機関のデンマーク水理学研究所(DHI)、ドイツ環境省、カッセル大学、英国環境庁、地盤工学のソフトダイレクトリー、水文地質学者のホームページを紹介します。


1) USGS(U.S. GEOLOGICAL SURVEY合衆国地質調査所) とは
URL http://www.usgs.gov/
 U.S. GEOLOGICAL SURVEY の略称で、合衆国内務省<http://www.doi.gov/>直属の研究調査機関です。30数年前に、故ケネディー大統領がもはやフロンティアは無くなったと公式に宣言するまでは、米国には西部劇の舞台となったような未開拓なフロンティアが多く残されていた国です。これを象徴するのが内務省のエンブレム、バッファローです。
 内務省は西部の開拓を円滑に進めるために創立された公的サービス機関で、灌漑水や飲料水、発電などの水資源開発で世界的に名を馳せた開拓局( United States Bureau of Reclamation < http://www.usbr.gov/main/ >)やインディアン保護局、鉱山局、石油鉱物局、国土管理庁、野生生物庁、国立公園庁、地質調査所などがその翼下にあります。ですから地質調査所と言っても、狭い意味の地質調査以外に国土調査や水資源の調査・研究、地形図の測量調査や印刷、野生生物の生態調査、鉱物や石油の探査、火山や地すべり・土石流・地盤沈下・地震など災害の調査研究、海底地質調査などグローバルな地球科学の研究・調査センターで、最近は環境調査やデジタルマッピングにも力を入れており、水や土などを含めた地球の自然資源の総合調査研究機関とも言え、その使命を次のように定義しています。

■ Mission of the U.S. Geological Survey
As the Nation's largest earth science research and information agency, the USGS maintains a long tradition of providing "Earth Science in the Public Service."
The USGS, a bureau of the U.S. Department of the Interior, was established to provide a permanent Federal agency to conduct the systematic and scientific "classification of the public lands and examination of the geological structure, mineral resources, and products of the national domain." The mission of the USGS is to provide geologic, topographic, and hydrologic information that contributes to the wise management of the Nation's natural resources and that promotes the health, safety, and well-being of the people. This information consists of maps, databases, and descriptions and analyses of the water, energy, and mineral resources, land surface, underlying geologic structure, natural hazards, and dynamic processes of the earth.
As a Nation we face serious questions concerning our global environment.
How can we ensure an adequate supply of critical water, energy, and mineral resources in the future? In what ways are we irreversibly altering our natural environment when we use these resources?
How has the global environment changed over geologic time, and what can the past tell us about the future? Will we have adequate supplies of quality water available for national needs? How can we predict, prevent, and mitigate the effects of natural hazards?
The USGS collects and analyzes the scientific information needed to answer these questions, and disseminates these results to the public in many forms, such as reports, maps, and data bases.
U.S. Geological Survey,
MS804 National Center, Reston, VA 20192,
USA
URL
http://www.usgs.gov/reports/yearbooks/1992/pp_mission.html
 Contact: webmaster@www.usgs.gov

 では、その予算や人員はどうかと言うと、1999会計年度の予算は総額8.07255億ドルで、職員数は9,774人となっていて、その使い道はというと次のようになっています。

マッピングプログラム1.51789億ドル8.80%
地質学的ハザード・資源2.33793億ドル28.96%
水資源調査2.14187億ドル26.53%
生物研究1.58312億ドル19.61%
一般管理・施設0.48802億ドル6.05%
その他財団・信託0.00342億ドル0.04%
合計8.07225億ドル 


 最後にインターネットだけでは満足できないという方は首都ワシントンの内務省ビルの前から無料のシャトルバスが出ていますので、私はUSGSから招待されたものだと断ってお乗りください。間違っても 同じバージニア州にあるFBIや CIA行きのバスにはお乗りにならないように、30分ほどで着きます。
● USGSの水文解析ソフトサイト
<http://water.usgs.gov/software/>
 U.S. Geological Surveyの水文解析ソフトウエア・サポートチームが管理するサイトで、次のような分野に関するフリーソフトが多数あり、ソースコードやドキュメント、マニュアルなども完備していて使いやすくなっています。
Geochemical
Ground Water
Surface Water
Water Quality
General
 その他、面白いところでは次のようなウェッブもありますし、研究論文や地質図、地形図、地下水アトラス、水文データベース、リアルタイムの河川情報・火山情報・地震情報などがありますので、キーワードを使って検索してみてください。
● USGSの水の学校 http://wwwga.usgs.gov/edu/
● USGSの中高校生のためのラーニングウェッブ http://www.usgs.gov/education/
● USGSのあなたの分水域( Watershed)に関する科学 http://water.usgs.gov/wsc/
● サーチUSGS http://search.usgs.gov/

 なお、本文は1998年10月20日、社団法人日本技術士会応用理学部会での講演を元に加筆したものです。
 ご質問などは< kharad@pp.iij4u.or.jp net>までお寄せ下さい。



(編集部より)
 次回も引き続き、原田氏に「役に立つHP」の紹介をしていただきます。お楽しみに!
原田和彦 氏 略歴
1945年大阪府豊中市に生まれる。
1969年早稲田大学資源工学科卒
1981年技術士登録(応用理学部門、水文地質)
国際航業(株)、セコム(株)などを経て
1990年独立、アクアシステムズ研究所を主宰。
また
1995年12月から屋上菜園やソーラー給湯・発電、風力式水循環ポンプ、ビオトープ、雨水浸透・貯留施設などを完備した環境共生型の集合住宅(小金井市)に住む。


著書等:
1995年「地下水盆の環境管理に関する研究」で日本地質学会賞を団体受賞
1993年編共著 「地下水資源・環境論」
                  共立出版
1978年共訳 「地下水管理モデル」
            環境科学情報センター
1976年共著 「地下水盆の管理」
                東海大学出版

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