特集 岩瀬村温泉工事
思いつくままに、温泉ばなし
地質環境課
澤内 知子

1. 痛かった温泉!?
 いつだったか、女友達と3人で温泉にでかけたことがあった。
 とてもゆで玉子臭い温泉だと言うので、
「ああ、硫黄系ね」
とかなんとか知ったかぶりをしながら一緒にでかけた。実際、とてもゆで玉子臭い硫黄泉で、露天風呂であった。
3人とも、さっさと服を脱いで、
「っかーっ、サイコーっ」
なんて言いながら、湯に浸かる。と、中の一人が、こんなことを言い出した。
「温泉に浸かると、からだの悪いところが痛くなるっていうよねぇ。」
へえ、そうなんだ、なぜだろう。と思っていると、もう一人がこう言う。
「え、ホント? あたし、さっきから顔が痛い。ひりひりする。……」
すかさず。
「……顔、悪いんだねぇ。」
可哀想に、なんてからかいながら3人ともしばらくその温泉を堪能した。
 後日読んだ温泉関係の本に、「泉質別適応症と禁忌症」の一覧が記載されていたが、これによると硫黄泉の禁忌症の1つに「皮膚、粘膜の過敏な人、とくに光線過敏症の人」というのがあった。うむ、なるほど。


2 .泉質分類と効能
 温泉の分類についてだが、さまざまな性質を表すため分類方法も多様のようである。温度や水素イオン濃度(pH)、溶存成分の濃度などによって分類名がある。一般に広く用いられているのは、旧泉質名と呼ばれているもので、その温泉水の含有成分の種類やその割合に基づいて分類されている(表−1)。さらに細かく分類することができるようだが、ここでは省略させていただくこととする。
 ところで、私のような「にわか温泉愛好者」が気になるのは、どんな泉質の温泉がどんな効果をもたらすかである。
「温泉はあったかいから、人間のからだがあったまって血行が良くなり、元気になった気がするだけじゃないの?」とだけしか考えていなかった私だけれど、先日読んだ本にこんなことが書いてあった。
 温泉入浴の効果は、含有成分による化学的薬理作用と、熱、水圧、浮力などの物理作用、さらにその温泉地の自然環境や転地効果などの要素が総合的に働いてもたらされる、ということである。さらに泉質によってその効果はさまざまで、適応症がある反面、禁忌症(病気がかえって悪化すること)もあるという。
 大多数の泉質が、切傷、慢性皮膚病などに適しており、この他にも神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、腰痛、リウマチ、運動麻痺、関節のこわばり、打身、くじき、慢性消化器病、胃弱、疾患、冷症にも効果があるようだ。
 また、泉質による効果の特徴として例をあげると、食塩泉では入浴後に皮膚に付着した塩分が汗の蒸発を防ぎ保温効果が良いとか、重曹泉は皮膚を清浄で滑らかにするとか、単純炭酸泉は飲用すると、胃腸粘膜の血管を拡張して充血を起こさせ胃腸の運動を促進させると、いわれているようである。


3 .温泉は楽しい
 いろいろ効能を考えていると収拾がつかなくなってきそうだが、なんにしても、温泉はどんな病気にも効果があるというわけではなく、泉質や入浴方法によって毒にも薬にもなる存在だ。
美肌効果を期待して入る温泉、疲労回復に適した温泉、具体的に病気を治療する場合に入る温泉など、目的によって泉質を選ぶのも良い。入り方として、湯の温度やつかる時間、間隔、回数などを工夫するのも良いそうだ。体温に近い34 〜38℃の湯は、長い時間かけてつかると気分がゆったりし神経がしずまり、温泉成分もよく体内へ侵入するとされ、「打たせ湯」は湯の熱と圧力の効果により肩こりや腰痛などを和らげる。
 また、飲用についても注意が必要のようである。効果を期待しての飲み過ぎは、体調をくずさせ逆効果になるし、目的以外の溶存成分による安全面で不安があるものもある。
 今回、温泉利用について何冊か本を読んでみたが、目的に合わせてからだにあった温泉を選び、入り方などを工夫してみるとその楽しみも一段と増すように思われた。気軽に入れる温泉が私は好きだが、その効能をもっと意識して利用してみたい。


参考文献
1) 白水晴雄(1994),温泉のはなし,
                技報堂出版
2) 植田理彦(1991),温泉はなぜ体によいか,
                  講談社


表-1 泉質と効能
旧泉質名
(新泉質名)
化学的特徴 適応症 禁忌症
浴用 飲用 浴用 飲用
単純温泉
(単純温泉)
泉温が25度以上で、固形成分は水1kg中1000mg(1g)未満。一般に無色透明、無味、無臭。 神経痛、リウマチ、腰痛、手足のしびれ、運動機能障害、皮病、外傷、火傷、高血圧症動脈効硬化、脳卒中の回復期の保養、骨折などの後保養など。温泉水の成分によってまちまち。 軽い胃炎、利尿作用など --- ---
単純炭酸泉
(単純二酸化炭素泉)
水1kg中に遊離二酸化炭素1000mg以上を含み、固形成分は1000mg未満。サイダーのような酸味がある。 高血圧症、動脈硬化症、切傷、やけど 慢性消化器病、慢性便秘、通風、肝臓病、糖尿病、利尿作用 --- 下痢のとき
重炭酸土類泉
(カルシウム
(マグネシウム)
−炭酸水素塩泉)
水1kg中に固形成分1000mg以上を含む。 陰イオンとして炭酸水素イオン、陽イオンとしてカルシウムイオンとマグネシウムイオンが主成分。 切傷、やけど、慢性皮膚病、美肌作用 慢性消化器病、糖尿病、通風、肝臓病、腎臓結石 --- ---
重曹泉
(ナトリウム
−炭酸水素塩泉)
陰イオンとして炭酸水素イオン、陽イオンとしてナトリウムイオンが主成分。 --- 腎臓病、高血圧症、そのほか一般にむくみのあるもの
甲状腺機能亢進症のときは、ヨウ素を含有する温泉を禁忌とする。
食塩泉
(ナトリウム
−塩化物泉)
陰イオンとして塩素イオン、陽イオンとしてナトリウムイオンが主成分。味が塩からい。 神経痛、リウマチ、打ち身、手足の冷えやしびれ、手術後や病後の保養、切傷、やけど、慢性皮膚病、虚弱児童、慢性婦人病 慢性消化器病、慢性便秘
硫酸塩泉
(硫酸塩泉)
陰イオンとして硫酸イオンが主成分。陽イオンとしてマグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオンを主成分とする場合をそれぞれ正苦味泉、芒硝泉、石膏泉という。 高血圧、神経痛、手足のしびれ、リウマチ、痔疾、動脈硬化症、切傷、やけど、慢性皮膚病 慢性胆嚢炎、胆石症、慢性便秘、肥満症、糖尿病、通風、肝臓病 --- 下痢のとき、また、芒硝泉の場合は重曹泉および食塩水に準ずる。
鉄泉
(鉄泉)
水1kg中に鉄イオン20mg以上を含む。陰イオンとして炭酸水素イオンを主成分とする炭酸鉄泉と硫酸イオンを主成分とする緑礬泉に分かれる。湧出時は無色だが、空気中で酸化して褐色の沈殿物を生じ、濁っている。 月経障害、更年期障害、子宮発育不全、湿疹、神経痛、リウマチ 貧血 --- ---
明礬泉
(アルミニウム
−硫酸塩泉)
水1kg中に固形成分1000mg以上を含み、陽イオンとしてアルミニウムイオン、陰イオンとして硫酸イオンが主成分。 慢性皮膚病 慢性消化器病 --- ---
硫黄泉(硫黄泉) 水1kg中に硫黄2mg以上を含む。硫化水素を含まない狭義の硫黄泉と、硫化水素を含む硫化水素泉に分かれる。ゆで卵の腐ったような臭いがする。湧出時は無色透明だが、次第に硫黄分が沈殿して白濁している。 慢性皮膚病、慢性の鼻喉炎、慢性婦人病、切傷、糖尿病、気管支カタル、喘息、神経痛、リウマチ、湿疹、吹き出物、美顔作用
硫化水素泉の場合はそのほか、高血圧症、動脈硬化症
糖尿病、通風、便秘 皮膚、粘膜の過敏な人、とくに光線過敏症な人
硫化水素泉の場合は、高齢者の皮膚乾燥症
下痢のとき
酸性泉
(酸性泉)
水1kg中に水素イオン1mg以上を含み、塩酸や硫酸のような遊離鉱酸を構成する。酸味がある。 殺菌力が大変強く、皮膚病の内でも特に、水虫、疥癬、湿疹などに効果がある 慢性消化器病
放射能泉
(放射能泉)
泉源で水1 中にラドンを100億分の30キュリー単位以上、またはラジウムを1億分の10mg以上含む。 通風、動脈硬化症、高血圧症、慢性胆嚢炎、胆石症、慢性皮膚病、慢性婦人病、更年期障害、鎮静循環器障害改善、ノイローゼ 通風、慢性消化器病、慢性胆嚢炎、胆石症、神経痛、筋肉痛、関節痛 --- ---



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