水文学・水文地質学・地盤工学でのインターネットの活用(2)
水文地質コンサルタント アクアシステムズ研究所 代表
原田 和彦(技術士 応用理学部門 水文地質)

ブラウザ  前回は米国の代表的な地球科学の研究・調査のセンターとも云うべき、USGS(合衆国地質調査所)をご紹介しました。
“U.S. Geological Survey”<http://www.usgs.gov/>「地質調査所」という由緒ある看板は150年前に設立された当時から変わりませんが、その中身は常にリストラクションされているというより、地球科学の進化に伴って絶えず改革されていて、水文学、水文地質学、堆積学、地質学・地盤工学、海洋学、惑星科学、測地学・地理情報システム、生物学・生態学など多くの地球惑星科学の分野でリーダーシップを発揮しています。また、近年は環境学や土星や火星、月などの地質調査をNASAと共同で行っています。
 今回は地球環境問題に積極的に取り組んでいる合衆国環境保護庁やミルスペックでお馴染みの陸軍工兵隊の水路試験所(USACE-WES)と水文工学センター(USACE-HEC)、エネルギー省の研究機関、ローレンス・リバモア国立研究所、内務省開拓局の地区事務所を中心にお話致します。


2)U.S. EPA(Environmental Protection Agency:環境保護庁)とは
URL http://www.epa.gov/
 合衆国環境保護庁といいますが、日本の環境庁とは異なり、この公共サービス機関は司法捜査権を持った捜査官と水や土、大気、生物、衛生、法律などの専門官を多数抱えています。ちなみに、平成11年度における日本の環境庁の予算額は総額で940億円、これを1008人の職員でこなしますが、EPAの予算と人員はFY1999 Budget Totals $7.8 Billion (約9,021億円)Work years 18,375 (人/年) となっています。
 参考までにOECDによる1997年の先進各国のGDPと人口は次のとおりです。

GDP (1997)
Billion Dollars
Population
thousands
Canada 608.7 26,204
United States 7820.3 240,651
Japan 4192.7 121,490
Germany 2100.2 61,066
France 1395.6 55,547
United Kingdom 1282.4 56,852
Italy 1145.4 57,246
 EPAは1970年代末に起こった有名なラブ・キャナル事件を契機に、スーパーファンド法を成立させ、土質汚染や地下水汚染に対して強力な行政権を持つ様になりました。
 スーパーファンドとは、1976年に制定された産業廃棄物規制法(RCRA)では過去に投棄された廃棄物による汚染には無力であったため、ラブ・キャナル事件の翌年1979年に制定された連邦基本法(憲法)第42章−公衆衛生と社会保障法-第103節−包括的環境対策賠償責任法 (CERCLA−COMPREHENSIVEENVIRONMENTAL RESPONSE, COMPENSATION, AND LIABILITY ACT:一般にスーパーファンド法といわれる)によって設けられた地下水汚染浄化のための基金です。
 なお、米国の環境関連法の詳細は <http://www.epa.gov/region5/defs/>にあります。
 またU.S.−EPAの基本的な任務は次のとおりです。

■ EPA's Mission
The mission of the U.S. Environmental Protection Agency is to protect human health and to safeguard the natural environment - air, water, and land - upon which life depends.
EPA's purpose is to ensure that:
All Americans are protected from significant risks to human health and the environment where they live, learn and work.
National efforts to reduce environmental risk are based on the best available scientific information.
Federal laws protecting human health and the environment are enforced fairly and effectively.
Environmental protection is an integral consideration in U.S. policies concerning natural resources, human health, economic growth, energy, transportation, agriculture, industry, and international trade, and these factors are similarly considered in establishing environmental policy.
All parts of society-communities, individuals, business, state and local governments, tribal governments-have access to accurate information sufficient to effectively participate in managing human health and environmental risks.
Environmental protection contributes to making our communities and ecosystems diverse, sustainable and economically productive.
The United States plays a leadership role in working with other nations to protect the global environment.

◆EPAの水のホームページ
 ここ<http://www.epa.gov/ow/>にあり、水に関する在りとあらゆる情報で満載です。また、珍しいところでは子ども達にサービスするスタッフ<http://www.epa.gov/ow/kids.html>も常駐していますし、地下水・飲料水オフィスのHPは<http://www.epa.gov/OGWDW/>にあります。
 水環境に関して、EPAではUSGSの協力を得て、分水域(Watershed)毎に水資源や水質、土質をマネージメントしていて、住民にも分水域毎の水の情報を提供しています。

◆EPAのWatershed 情報
http://www.ctic.purdue.edu/KYW/KYW.html
 公開されているソフトウエアには、洪水解析モデル(SWMM)や分水域管理ツール(BASINS)、地下水モデル(CSMoSModels)などのように世界各国の専門家から高い評価を受け、良く利用されているソフトもあり、次のサイトからダウンロードできます。

●SWMM
http://www.epa.gov/ostwater/SWMM_WINDOWS/index.html

●BASINS
http://www.epa.gov/watrhome/soft.html

●CSMoSModels
http://www.epa.gov/ada/models.html

3)合衆国陸軍工兵隊水路試験所のホームページ
US Army, Corps of Engineers Waterways Experiment Station WES
URL http://www.wes.army.mil/
工兵隊HP


 水路補修処(通称 CE-WES)はその名の通り米国国防総省(DoD)の試験研究機関の一つで、陸軍工兵隊が行う土木事業に関する基礎的な研究や試験、研修を行う機関です。日本では陸上自衛隊の施設部隊が この工兵隊の一部に相当しますが、欧米では一般に軍事戦略上重要な運河、水路、河川、橋、道路、空港などの建設と維持管理に工兵隊があたる例が多く、元々 Engineerとは絶対王政時代の工兵や砲兵に由来し、その源流を辿るとレオナルド・ダ・ビィンチに行き着きます。
 今日のシビル・エンジニアの祖先にあたるレオナルドは城塞や運河、兵器、都市なども設計していますから彼の手記は工兵隊長や領主にとって、秘伝の巻物のようではなかったかと想像されます。数年前にレオナルドの手記を買い取ったビル・ゲイツ氏は、さしずめ現代の工兵隊長か傭兵隊長かも知れません。フランス革命以後、市民政権が誕生して、民生部門を担当した工兵をCivil Engineerと呼び慣わすようになったのではないかと思っています。その伝統を伝えるためか合衆国工兵隊のエンブレムは今でも中世の城塞をモチーフとして、日本で言えば、建設省と運輸省港湾局などの公共土木サービス部門を包括する組織と思っても間違いありません。
 WESには大きく分けて、海岸・水理、環境、地盤、構造、情報の五つの研究所とサポートスタッフ機関があり、本部はミシシッピ州のヴィックスバーグにあります。1926年のミシシッピ川大洪水の後に、米国で初めて設立された水理学関係の連邦政府研究機関で、日本からも多くの研究者がここには留学しています。

● CHL
http://chl.wes.army.mil/software/
この海岸・水理研究所(CHL)で開発した洪水や水資源管理など水文解析ソフトは世界の標準となるほど良く知られ、今日では公開され自由にダウンロードできます。また、CHLがUSGSのModflowを元にブリンガムヤング大学の土木・環境工学科(< http://www.ecgl.byu.edu/ >)と共同で開発した地下水モデルGMSや分水域モデルWMSは世界中の専門家から高い評価を受け、現在は有料で公開されています。

● HEC
http://www.wrc-hec.usace.army.mil/software/
 また、カリフォルニア州リバーサイドにある水文工学センター(The Hydrologic Engineering Center (HEC)でも水資源の計画と管理に関する研究と技術者の研修も行っており、水文解析のソフトウエアも実費で配布しています。

4)ローレンス・リバモア国立研究所のホームページ
Lawrence Livermore National Laboratory LLNLHomePage
URL http://www.llnl.gov/

HP画面  サンフランシスコ国際空港からサンフランシスコ湾を横断して車で1時間ほど東に行くとローレンス・リバモア国立研究所があります。この研究所は連邦エネルギー省の一機関ですが、現在はカリフォルニア大学が運営しています。http://www.lanl.gov/Public/Welcome.html>)、バークレーにあるLBNL(ローレンス・バークレー国立研究所 <http://www-esd.lbl.gov/>)と並んで核兵器や核実験の研究で知られ、世界一セキュリティーが高い研究機関としても有名です。

◆水文学と地下の物質移動モデルのホームページ
 Hydrology and Subsurface Transport
http://www-ep.es.llnl.gov/www-ep/esd/sstrans/sstrans.html
LLNL Geosciences HP
http://www-esd.lbl.gov/
 現在でも核関連の研究も実施していますが、コンピュータや通信技術などハイテクと環境の研究でも世界トップクラスの研究所です。特に核廃棄物の地質処分に絡んだ水文地質学の研究も盛んで世界一早いコンピュータを使って、地層中の物質移動の研究も行っています。
The Subsurface Transport Group develops, tests, and applies models for fluid flow in geologic media. Fluid flow problems being studied range from the movement of groundwater in the near-surface to the movement of magma in the crust and upper mantle. The primary focus of the group has been studies of the movement of dissolved aqueous or gaseous chemicals and microbes in heterogeneous porous media, concentrating on reactions among the transported species and the surrounding medium. This work has broad application to the variety of hazardous and nuclear waste disposal problems being addressed by DOE and the nation, such as the characterization and remediation of contaminated groundwater at DOE sites, and the evaluation of the hydrologic regime at the proposed Yucca Mtn. high-level nuclear waste repository.

 なお、PNNLの水文学のホームページは構築年代も古く、そのリンク集は非常に充実しています。

● PNNL
http://terrassa.pnl.gov:2080/EESC/resourcelist/hydrology.html
 また、水文学関連ではオークリッジ国立研究所(ORNL)の水文観測サイトも充実しています。

● ORNL
http://www.esd.ornl.gov/facilities/hydrology/


5) 内務省開拓局コロラド上流域事務所のホームページ
Upper Colorado Region HP
URL http://www.uc.usbr.gov/

 United States Bureau of Reclamation
 Upper Colorado Regional Office
 Salt Lake City, Utah
HP画面  米国サイトの最後にTVA以来の伝統を誇る水資源開発のパイオニア、合衆国開拓局を紹介します。開拓局の任務は米国民の公共の福祉のために、環境や生態系を考慮した偏らない姿勢で、水とこれに関連する資源を開発、保護、管理する事であるとしています。開拓局は過去に多くの巨大なダムを建設し、潅漑や発電・水資源開発事業を行ってきましたが、1995年春、クリントン大統領はニューメキシコ州出身のヒスパニック系プロフェッショナル・エンジニア、エルイド・マルチネス氏(Eluid Martinez P.E.) を総裁に指名し、開拓局の方針を、ダムを中心とした建設事業から、水資源の有効利用と保護管理へと大幅に変更しました。
 USBRのURLにアクセスする事で世界の水資源開発をリードしてきた開拓局の具体的な方向が解ると思いますので、ぜひ一度、インターネットで開拓局をお訪ね下さい。迫力あるダム・サイトのスライドもたくさん用意されています。
The mission of the Bureau Of Reclamation, is to manage, develop, and protect water and related resources in an environmentally and economically sound manner in the interest of the American public.
 このHPには水資源情報センターや水文学、地質学・地球物理学などの研究室のHPもあり、フリーのソフトや現在の貯水池の水位レベルもリアルタイムで紹介しています。
 なお、本文は1998年10月20日、社団法人日本技術士会応用理学部会での講演を元に加筆したものです。質問などは<kharad@pp.iij4u.or.jp>までお寄せ下さい。


(編集部より)
 次回は統合にわく欧州の関連サイトを紹介していただく予定です。お楽しみに。

著者紹介
 原田和彦
 アクアシステムズ研究所 代表
住 所: 〒184‐0003 東京都小金井市緑町1-3-31 K.Yビル 1F
連絡先: Tel 042-383-5825 FAX & Tel 042-383-5818
E-Mail: kharad@pp.iij4u.or.jp
専 門: 水文地質、水資源計画、水文環境、地下 水、地盤など水と土の調査解析と評価
著書等:
1995年「地下水盆の環境管理に関する研究」で日本地質学会賞を団体受賞
1993年  編共著 「地下水資源・環境論」共立出版
1978年  共訳  「地下水管理モデル」環境科学情報センター
1976年  共著  「地下水盆の管理」東海大学出版

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