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汚れた湖沼の水質を改善する技術
−千葉県手賀沼水質浄化実験に参加して−

(株)ケセン地質研究所+(株)シェルタッチ
代表取締役  小泉 斉
住所:〒262-0005 千葉市花見川区こてはし台1-18-5
TEL 043-286-0355  FAX 043-258-8809
E-mail:keseneco@ta2.so-net.ne.jp
URL:http://www.shelltx.com

イラスト  ワーストワンを誇る?手賀沼の水質をなんとか改善しようと試みた千葉県は『エコ・テク・サポート』として自前の費用(千葉県の税金)を負担しないで、一般公募した参加企業による費用負担で実施した。これらの概要と今後の展望とを環境問題への意義を述べてみたい。
 これまでの水質改善技術は実施企業側の水質検査で評価される場合が多く、必ずしも公平な評価を下すことがなかったので、是非とも参加して『カキ殻接触浄化法』の技術を磨くよい機会であると考えた。実験をした期間は平成10年11月24日から平成11年3月24日である。幸い、公募をした118社のうち21社の技術の中に選ばれた。公開実験の場所は柏市を流れる大津川、手賀沼公園そして手賀沼沼内のことなる地域であった。かならずしも公平な水質条件でないのと、実験期間が厳冬期にあたり、しかも時間が短いので評価がむずかしいが『カキ殻接触浄化法』で参加することができた。この手法は筆者の実兄(小泉則一)が考案した手法で、産業廃棄物である牡蛎殻の形をそのまま利用すること、牡蛎殻に住み着いている微生物を利用することが大きな特徴であり、主として魚加工で発生する汚水処理に15年前から行われて来た。そのため、塩水でも淡水でも浄化することができる世界的に例のない優れた技術である。(朝日向ほか1981)。
 さらに発展して河川浄化にはすでに宮城県迫町や志津川町で実施され、平成11年からは公共下水処理施設(陸前大島=気仙沼市)にも使われてきており、環境負荷の少ない方法であることが確かめられているが、全国的にはまだまだ知られていない手法である。

浄水施設
写真-1 手賀沼浄化『大津川実験場』

水質を改善する技術には大きく分けて3つの手法に分類され、つぎのような特徴がある。
手法 利用する物質 処理速度 設備費用 コスト 環境負荷
自然のものを 礫や水草、貝殻、木炭 遅い 安い 安い なし
化学的処理する 凝固剤を入れて改善 早い やや高い やや高い 懸念あり
物理的処理する 超音波、オゾン、濾過材 素早い 高い 高い ややあり
 ただし、上記の特徴は必ずしも一元的ではなく、詳しく検討すれば個々には優れた手法もあるが、これらの種々雑多な手法を同じ土俵(水質)で競いあったらどんな結果(評価)を下すことができるかを競いあった千葉県の試みに意義があろう。最終的に千葉県は個々の技術に評価を下してはいないが、筆者が独断と偏見を交えて評価を試みるに別表のような総合評価の結果が読み取れる。(千葉県1999)。このような評価のもとに優れた技術を組み合わせ、手賀沼ひいては多くの汚れた陸水を浄化する技術を磨いていったらよいのではないかと考えている。
 まず、目に付くのは貝化石を利用した方法が総じてよい結果を示していることである。手賀沼では窒素や燐の削減がおおきな課題であり、この課題に答えてくれる手法があることを示唆している。それに較べ物理的手法が設備費を過大にかけた割にはよい結果になっていないことは今後の水質改善、汚水処理技術に課題を残している。これからは、自然界の物質を上手に利用して、生物学的手法を組み合わせて処理するのが賢明な方法であることを証明している。過大な投資をして技術の粋を集めておこなっても、自然の力にはかなわないことを暗示している。自然界でのいとなみを解明して、上手に利用していくことが大事であり経済的である。これから日本の社会は高齢者(税金がたくさんとれない)が多くなり、環境税(下水道や水道のように負担金を徴収できない)などで公共水域利用税などがない時代では出来るだけ経済的で負担がすくない手法でなければ生き残れないことを示唆している。しかし、日本の産業とそれに結び付いている官民の癒着構造は、雇用の確保を破壊するという理由ですぐれた浄化手法を排除する力が働いている。
カキ浄化施設
写真-2 カキ殻接触浄化装置


何故、カキ殻接触浄化法なのか
 手賀沼浄化実験で示されたようにカキ殻接触浄化法は優れた手法のひとつとみなされよう。牡蛎殻は養殖場では産業廃棄物として野積みになっている。地球温暖化の要因とみなされている炭酸ガスの塊CaCO3でもある。酸性の水が中和される。コンクリートで造られた浄化槽にアルカリに富んだカキ殻の汚水でコーテングされる。カキ殻は多孔質なモザイク構造で造られ、表面は起伏に富んだ瓦が積み重なった構造のため微生物のすみかに打ってつけである。カルシウム材であるカキ殻は発熱しながら汚水を取り込み沈澱する。牡蛎は淡水と海水が交じり合った環境で生きている生物であり、海水でも淡水でも浄化効果が働く、牡蛎は底性の固着生物であり餌として取り込む微生物を自分の体にもっている(この微生物=NK株は有機汚水を栄養源として増殖する)。
 このような特長を上手に利用することによって、汚れた水を改善する技術に発展させたのが『カキ殻接触浄化法』である。(小泉1997)。
 牡蛎の養殖を行うのには山に木を植え、豊富で清涼な河川水を海に供給しなければならなく、『漁師が山に木を植える』作業を伴う。山の広葉樹林(ブナや栗など)は枯れて川に流され(フルボノ酸が発生)海に入るとフルボノ酸が微生物の栄養源になり、海草類が育つ効果が働く。(松永ほか1999)。

カキ殻接触浄化法の応用例
(1)河川浄化の場合
 大きな河川なら両岸に側溝を造り、カキ殻を蛇籠(60×60×40cm)に入れ側溝に引き込み、汚れた河川水を通過させる。おおよそ100mできれいな水にうまれかわる。できれば20%の水量をリターンさせれば、なおよい効果が期待できる。カキ殻に住み着いている浄化を促進する微生物群(商品名NK株)10kg程度を水に溶かして添加するので、浄化促進剤が十分に増殖しないうちにすべて流れ去ることのないよう流量を押さえる必要がある。
 小さな河川なら川底にカキ殻を篭に敷き込む。幅1m水深30cmで時間5トンの水量なら150〜200m程度の延長できれいな川になる。洪水のときには篭のうえを水が通過して邪魔にならないよう、篭がながされないようにアンカーをとれば、洪水に影響されなく、普段の流れのときにカキ殻の中に住み着いて隠れていた微生物が活発に活躍する。河川水路の建設費を別にしても、200m延長で2千万円くらい。
蛇篭に入れたカキ殻
写真-3 蛇篭に入れたカキ殻


(2)湖沼浄化の場合
 水量20〜100トンの小さな沼なら、風呂桶(1〜2平方メートル)にカキ殻を詰め、池から水を揚み上げて循環させる。自然浄化促進剤(NK株)を1kgで、その後の添加はほとんどいらない。家庭用雨水利用にでも使え、アオコ防止に役立つ。カキ殻を詰めた浴槽の表面に青海苔が発生するので、適時に水で洗浄したほうがよい。
 日量10〜20トンが流れ込む湖沼では、直径20m程度の浮かぶプールをいくつか造り、カキ殻を100〜500ヶ(5〜20トン)を入れてソーラー発電で循環させる。中央に噴水できれいになった水を吹き上げる構造にすればなおよい。このような装置をたくさん並べるようにして、塩素消毒のいらない親水公園にすることもできる。
 水量20トンの小さい沼で20万円くらいから。日量100トン処理なら100万円くらい。ランニングコストは手賀沼浄化では日量24〜48トン処理で1トンあたり電気料金13円であった(1kWh=25円として)が電気料金1トン処理あたり5円程度には引き下げることが可能である。しかし、ソーラー発電だけでは水を汲み上げるポンプの電力が不足するので、今後の課題はのこる。

(3)ホテルや病院などの場合
 大きなホテルや病院で使用する水は大量で、すべてを地下水に求めることは、地下の水収支の問題から不可能である。使用した水の再利用を考えなければならない。ただし、再利用水100%は水の活性化の点で問題であるので、20%の水量は新たな水を供給しなければ、水が死んでしまう(水質が悪化していく)ので、浄化した後に広い水域で太陽光にさらしてから再利用したほうが望ましい。100トン貯留槽で50〜60万円くらい。

(4)発展途上国での可能性
 世界中どこでも水資源が並々深刻化しているが、山に木を植えて、きれいな水を流し、海では牡蛎の養殖を行い、中身は食料、殻は水質浄化にすれば、安い経費で浄化施設が建設できる。井戸を掘削するより、経済的でカキ殻は盗まれる心配が少ないのでは。
 内陸奥地でカキ殻を手に入れることが不可能な地域では、カキ殻とプラスチックのリングを交互に入れた水槽をつくれば日量50トンのきれいな水が確保できる。10〜20万円でできるのではないかと考える。自然浄化促進剤(NK株)は日本から送ることが可能である。携帯電話の水質チェックセンサー(価格50万円)をあらかじめ入れておけば1分間350円で世界中にアクセスできる。
 カキ殻は発熱しながら分解して汚泥として沈澱、3年で半分にへるのであとから補充する、値段は1kg 100〜200円程度。
 これらの事業を行うことにより、自国で発生した産業廃棄物を再利用すれば、新たに産業育成(牡蛎の養殖促進)に繋がるのではないかと考えている。カキ殻接触浄化法では高いお金がとれない(安い値段でできる)が、経済的植民地政策には程遠い、貧しい国に優しい政策になりうる。開発主導から脱出して自然環境と共生しながら発展する可能性のある事業であると考える。


小泉 斉 氏  略歴
1945年 中国大陸・山東省維県で生まれる
  中学まで宮城県気仙沼市で過ごす。
  この間に化石(主として古生代)に夢中になる。
1965年 工学院大学高等学校建築課程、卒業
1970年 早稲田大学専修学校土質課程、終了
  東建地質調査(株)(現在の東建ジオテック)物理探査部門に75年まで勤務。
1977年 株式会社ケセン地質研究所、代表取締役。地質・土質調査、物理探査、機器レンタルを手がけ、現在にいたる。
1997年 株式会社シェルタッチ、代表取締役。水処理(カキ殻接触浄化法)の普及をしてトータルな自然環境保全を目指す。

 古生物化石(頭足類、腕足類、三葉虫について論文多数)の視点から地球の進化をみる。
現生の微小貝(1〜2mm)を世界中から集め、環境に敏感な生物の視点から地球を考える。

参照文献
朝日向・朝田・斎藤(1981)カキ殻を投与した浸漬濾床法での水処理研究−パイロットプラント−、用水と廃水(下水道研究会)23巻、27−38頁
小泉斉(1997)地球に優しい浄化法『気仙沼方式カキ殻浄化法』、第7回環境地質シンポ、71−74頁
松永勝彦・畠山重篤(1999)漁師が山に木を植える理由、成星出版(東京)、1−174頁
千葉県環境部(1999)手賀沼の底質改善等水質浄化に係る新技術報告書、千葉県、1−350頁

手賀沼浄化公開実験の各社毎の総合評価(平成10年11月24日〜平成11年3月31日)
手法 設備費用 100V使用量 200V使用量 1立方m/電力使用量 PH BOD COD 全窒素 全燐値 クロロフィルa 評価・考察
大津川原水
A 潮設備工業
B シェルタッチ
C C&U
D 日本美装
E セイスイ
 
火山岩
カキ殻
貝化石
木炭
セラミック
万円
600
60
3300
377
2826
主電源

1,800.0
2,432.2

 
12371.1
336.9



450.8
1トン当たりのコスト
0.12/3.1円
0.50/13.0円
0.33/8.3円
―/―円
0.56/14.0円
7.4
8.0
7.9
7.8
7.6
7.7
10.5
2.9
1.9
8.0
5.7
7.9
9.8
6.4
5.5
8.3
7.7
9.3
9.22
8.66
8.70
8.69
7.93
8.85
0.89
0.74
0.76
0.80
0.79
8.85
   
○BODが抜群
◎BODとCODの削減が最高
△ほとんど改善されず
△ほとんど改善されず
△ほとんど改善されず
親水公園原水
 
F 成田工機
G 東京利根
H 大日本プラ
I 共和コン
 
 
生物膜
貝化石
ビニロン
ひも状接触
共同電源
主電源

450
330
304
182
648.6
4749.5

2,493.1
1,752.5

32.1
7699.7
14058.9

1,911.7
1,375.4
2,138.4
918.2
 
 
0.61 /15.3円
0.43 /294.0円
02.9 /7.3円
0.13 /3.3円
9.2
 
8.8
8.7
8.7
9.1
17
 
16.7
5.8
13.1
12.5
18.2
 
16.2
10.9
14.3
14.5
6.44
 
6.36
5.34
6.27
5.73
0.5
 
0.46
0.24
0.54
0.44
336
 
284
140
176
221
 
 
△僅かな改善のみ
○燐が改善
△僅かな改善のみ
○僅かな改善のみ
手賀沼公園原水
J 鉄建建設
K 西原ネオ
L 三浦屋
 
貝化石
抗火石
素焼き
主電源
2597
829
276
0

1,916.9
6902.9
1,903.6
3,959.6
 
0.26 /15.3円
0.85 /15.3円
― /―円
8.9
8.0
8.2
8.9
18.2
3.2
11.4
11.3
18
7.3
13.4
14.2
6.92
4.79
6.51
5.69
0.57
0.29
0.53
0.45
292
43
198
198
 
◎BODと燐が改善
△僅かに改善
△僅かに改善
手賀沼沼内原水
T 千葉県建設
O 環境測定
手賀沼沼内原水
M 自然環境サ
P 河川美化シ
N シーブロッ
Q マリン技研
R 飯塚総業
S 山不二産業
U NEクリー
 
無機質汚濁
電子発生体
 
低回転水
電磁エアー
光合成魚礁
超音波
超微細気泡
特殊プロペラ
貝化石
主電源
615
140
 
3971
980
558
430
413
450
2914
2079.4

348.0
 
9.4
443.4




1,253.2
60422.4


 
42,765.5
19,207.9

6,359.6
11,579.0
16,536.7
4,634.4
 
― /―円
0.05 /1.3円
 
5.93 /148.3円
2.72 /68.0円
― /―円
0.88 /22.0円
1.61 /40.3円
2.29 /57.3円
0.81 /20.3円
8.7
9.0
8.5
 
8.6
8.7
8.2
8.7
8.6
8.4
8.2
10.5
5.2
15.7
7.7
4.1
14.0
8.0
7.4
6.9
19.0
5.4
13.2
12.0
18.2
10
13.0
17.0
11.0
10.0
9.4
25.0
8.9
7.73
7.04
7.10
7
1.5
4.1
5.2
6.5
6.2
3.6
6.1
0.58
0.15
0.55
0.59
0.20
0.37
0.27
0.51
0.44
0.36
0.35
   
○燐の削減が最高
△僅かな改善のみ
○窒素の削減が最高、設備が高い
△設備費超高い、僅かに改善
△燐の削減がやや良好
●設備費高い
●設備費高い
●設備費高い
△BODがやや良好
評価   34160 1トン当たりの処理コストは
1kwh当たり電気料金25円
8.7/8.3 10/11 12/13 7/7 0.5/0.4    
総合評価 ◎優良 ○良い △イマイチ ●悪い
評価はコストと設備費、水質の結果を勘案して独断と偏見で実施した。
ABC社と実際の会社名は一致していない可能性あり。
 最終的な評価では、設備費用、コスト、水質の結果などから総合的に判断すると『カキ殻接触浄化法』であるとみなされる。しかし、窒素と燐の削減に改善の余地がある。次に『鉄建建設』の順であるが設備費用を廉価にしても水質とりわけ窒素と燐が削減できるかどうかである。いずれにせよ貝化石もしくは貝殻が良いということが言えるので、貝殻を使って窒素や燐をどのくらい削減出来て、そのランニングコストと設備費用との兼ね合いとなろう。設備費用をかけても必ずしも水質が良くならないことが証明された。

作成者;(株)シェルタッチ小泉 斉

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