水文学・水文地質学・地盤工学でのインターネットの活用(3)
水文地質コンサルタント アクアシステムズ研究所 代表
原田 和彦(技術士 応用理学部門 水文地質)

 前回までは主にインターネット発祥の地、米国のサイトを中心にお話致しましたので、最後は欧州の水環境を中心に、デンマークの水理学研究所(DHI)、ドイツ連邦環境省、カッセル大学のイリソフト、英国環境庁と地盤工学のためのソフトベンダーのリンク集、水文地質学者のホームページを紹介します。


6) デンマーク水理学研究所
The Danish Hydraulic Institute(DHI)

URL http://www.dhi.dk
ブラウザ  水資源の管理システムやシミュレーション技術では米国に遅れを取った欧州各国はEUの発足を期に、今まで地道に活動してきた環境行政と飲料水の100%近くを地下水に依存していることも合わせて、水環境問題の世界的な主導権を握ろうとしているようです。その中でもデンマークは福祉と環境に独自のスタイルを構築してきたこともあって、EUの環境庁をコペンハーゲンに誘致し、世界の環境情報センターを目指しています。
 海洋や海岸、河川などの水環境と水資源問題の中心となる技術センターが今回紹介するデンマーク水理学研究所で、独立非営利の研究機関です。研究所の主要なテーマは水理学や流体力学が基礎理論となる海洋・海岸工学と河川工学(運河・水路・下水道を含む)、水資源工学で、世界の建設コンサンタントの指導機関を目指しています。
 デンマークでは明石海峡大橋と並んで世界第2位の吊り橋が1998年にスウェーデンのメルモとの間に建設され、明石海峡大橋(中央支間長 1,991m)より半年ほど先に竣功したので、暫くの間はこのスウェーデンーデンマーク海峡大橋(グレートベルト・イースト大橋 1,624m)が世界一だったこともあります。
 海洋汚染では事故が発生して間もない時期に、シミュレーション技術を活用して、汚染がいつどの辺まで拡大するかを予測することが不可欠ですが、備えあれば憂いなしで、海峡大橋を建設中に事故でオイルなどが海峡に流出した場合の環境アセスメントもDHIが行なっており、その結果もこのサイトからダウンロードできますので、海岸や河川での汚染を研究される方や環境アセスメントに関わっておられる方には参考になるものと思います。

● Software HP
URL http://www.dhi.dk/general/dhisoft.htm
 研究所応用分野は海岸、港湾、オフショアー、水路、測量、河川、水力発電、潅漑排水、水文、都市水文、オンラインモニタリングシステムと幅広く、水に関連した分野をターゲットとしていて、MOUSE、MIKE 11、MIKE 21、MIKE BASINのような河道流出及び汚染シミュレーションモデル、MIKE SHEのような水文学的循環モデルがあります。




7) ドイツ連邦環境省
Bundesumweltministeriums

 The German Federal Environment Ministry
URL http://www.bmu.de/
ブラウザ  第2回目で米国環境保護庁の話を致しましたが、米国、日本に続くGDP第3位の大国ドイツはと申しますと1996年の連邦環境省の予算は13.18億ドイツマルク(約922億円)で、人員も環境保護庁と連邦放射線保護庁を合わせても、2,150名程度でそれほど多くはありません。しかし、ドイツ連邦内の州政府・地方自治体・民間団体・民間企業で約100万の人々が環境保護及び修復部門で働いており、その支出総額は191.59億ドイツマルク(約1兆3411億円)に達します。
 環境省のHPには日本語の出版物の申込用のウエッブもありますので、取り寄せて読めば、ドイツを含めたEU全体の環境政策の一端をご理解いただけると思います。

http://www.bmu.de/english/infos/index.htm
 連邦政府は環境研究と環境技術開発のために、年間10億マルク以上を支出しており、そのうち、8億マルクは連邦開発省に、そこから約4億マルクが直接のプロジェクト助成、また4億マルクは州と共同で行なわれる研究のために非大学研究機関に、2億マルクが特に環境省、交通省、経済省の各管轄下での環境関連の研究のために支出されています。連邦政府は、環境分野における研究開発で世界の主導的地位を維持し、将来にも耐えうる環境の形成、持続可能な経済的利用、環境教育分野でこれをさらに進展させようと図っています。
 また、1999年1月1日からは連邦環境エネルギー税が導入されていますが、この環境エネルギー税は3段階に分けて導入される予定で、第1段階では、ガソリン1リットル当り6ペニヒ(約4円)、燃料油1リットル当たり4ペニヒ(2.76円)、ガス、電力については各々1KWH当たり0.32(0.22円)および2ペニヒ(1.4円)の税金が課され、今年度の税収は120億マルク(8,266億円)、最終段階では年間360億マルク(約2兆4,800億円)の税収が見込まれ、税収は全額社会保障予算に振り向けられる予定で、環境重視政策を進めつつ、重荷となっている高率な社会保障費の負担軽減を図ろうとしています。
 なお、ドイツ連邦では現在でも飲料水の水源の70%は地下水ですが、最近は多くの地域で地下水の水質が悪化しています。汚染の原因は農業における不適切な土地利用や大気汚染物質、ゴミの埋立、下水のもれ、あるいは有害物質の流出事故などによって生じており、旧東ドイツの各州では、富栄養化物や有害物質(毒ガスなど旧ソ連軍の化学兵器の投棄に起因する)による地下水の汚染のほか、水資源そのものが少ないことが原因です。
 そこで連邦政府の水資源政策の優先目標は地下水を自然に近い状態に保持することで、近年は環境修復技術の発達で地方自治体や企業の浄化施設が改善された結果、排出される有害物質は抑制され、現在は過去に投棄した有害物質によって拡散した汚染をリミディエーションするための政策が中心課題です。
 また、流域(地下水盆)保全の基本となる連邦水管理基本法は、地下水盆内での各種開発事業についての基本的規制を行うもので、地下水盆は自然の一部として公共の益に役立たせるとともに、地下水盆への悪影響を可能な限り回避することを定めています。この連邦水管理基本法は河川、湖などの地表水、海岸平野、地下水盆の全てを規制する法律です。
 元来、水道水源の殆どを地下水やわき水に頼ってきたドイツなど欧州各国では、上水道水源の地下水涵養域の保護には熱心で、一般人の立ち入りが禁止された広大な水源涵養保護林を維持してきましたが、この考え方を国土の全てに適用したのが連邦水管理基本法です。




8) イリソフト I R R I S O F T
水文学と灌漑ソフトウエア
WWW - Database on IRRIgation & Hydrology SOFTware
ドイツ・カッセル大学農業工学・資源保護学科
FG Kulturtechnik und Ressourcenschutz

URL http://www.wiz.uni-kassel.de/kww/irrisoft/irrisoft_i.html
ブラウザ  ドイツ・カッセル大学農業工学・自然保護科のトマス・シュタイン教授が作成した水文学や灌漑排水、水環境に関するプログラムを集めた良く整備されたデータベースで、古くから農学関係の水文学研究者には良く知られたサイトです。水文解析、用水路システム、排水計算、水理構造物、パイプ網など100以上のソフトを集積していて、インターネットのブラウザが無くてもFTPサイトからプログラムなどのダウンロード可能です。
IRRISOFT is an Irrigation and Hydrology Software Database which provides information on irrigation and hydrology software and links to servers containing the software packages and further information. Numerous irrigation programs have been written by individuals or groups and are available as public domain, shareware or commercial software. Additional information on the development and structure of development and structure of IRRISOFT is given on a separate page.
 The objectives of IRRISOFT are to give an overview of irrigation and hydrology programs available and to facilitate the retrieval and distribution by opening up download facilities or by e-mail order through the World Wide Web. This service has been started by Dr.Thomas-M. Stein and is provided by the Department of Rural Engineering and Natural Resource Protection at the University of Kassel (Germany).

IRRISOFT - ftp Server List of other servers and sources
Ftp Server: ftp.hrz.uni-kassel.de/pub/irrisoft/




9) 英国環境庁
the Environment Agency of England and Wales

URL http://www.environment-agency.gov.uk/
ブラウザ  1995年の環境法によって発足した英国環境庁のホームページです。我々がいう英国とはイングランドとウェールズ、スコットランドの連合王国のことですが、この環境庁は正確にいうとイングランドとウェールズの環境庁です。環境庁は政策を決定する内閣の一員ではなく、実際に政策を実施する機関でいわゆる外局、エイジェンシー(Agency)で、内閣の環境政策は環境・交通・地方省DETR (Department of the Environment, Transport and the Regions、http://www.detr.gov.uk/)で決定します。
 洪水の制御や運河の運営、水資源開発、水質管理などの河川・水路行政は30年以上前からリバーオーソリティ(国家河川管理委員会)が行なってきましたが、現在は環境庁が引き継いでいて、その機能は大別して洪水制御、水資源、汚染防止規制、 漁業、運河の航行管理、レクレーション、自然環境保護などです。
 The Environment Agency is a non-departmental public body established by the Environment Act 1995. We are sponsored by the Department of the  Environment with policy links to the Welsh Office and the Ministry of Agriculture, Fisheries and Food.
 The Environment Agency has taken over the functions of its predecessors, the National Rivers Authority, Her Majesty's Inspectorate of Pollution, Waste Regulatory Authorities and some parts of the Department of the Environment.

●英国自然環境研究会議
the Natural Environment Research Council
URL http://www.nerc.ac.uk/
 河川や水路、運河、湖沼の水文観測や環境のモニタリング、調査研究は全て、国家環境研究会議に委ねられており、技術的・学術的な検討が必要な政策は研究会議から直接内閣に勧告されます。そこで国土全域に渡る計画や施策などはここで調査された上で検討されることになっており、自然資源や環境に関わる国家のシンクタンクともいえます。研究会議が統括する政府の研究調査機関には、英国南極観測所、英国地質調査所、海岸・海洋学研究センター、生態学・水文学研究センター、サザンプトン海洋観測センター、科学情報技術センターなどがあり、会議は前述した環境庁とは異なり、連合王国の一政府機関で、本部はロンドンの西120km、ウエールズのスゥインドンにあります。

●英国地質調査所 The British Geological Survey(BGS)
-1835年に設立された、世界最初の地球科学に関する調査機関で、現在は鉱物、エネルギー、地下水、土地利用、地すべり・土石流・地震・火山・地盤沈下・土質汚染・地下水汚染など地質学的災害、環境の保護に関する研究を行なっています。
http://www.bgs.ac.uk/

●水文学研究所 The Institute of Hydrology
http://www.nerc-wallingford.ac.uk/ih/



10)地盤工学と地盤環境関連のソフト・ディレクトリー
The Geotechnical & Geo-environmental Software Directory on the Internet

URL http://www.ggsd.com/
ブラウザ  英国の地質コンサルタント、スピンク氏が作成したソフトウエアのディレクトリーで、現在、地盤工学や土質工学、岩盤力学、応用地質学、水文地質学に関する1037のプログラム・カタログが記載されおり、データ解析やデータ表示に関する644の世界的なサプライヤーとそのプログラム名も載せてあります。また、28のWWWに直接リンクでき、地盤工学と地盤環境工学の実務者のために無料のプログラムも入手できます。コマーシャルソフトばかりでなく、シェアウエアやフリーのソフトもありますが、使い勝手や性能などについてスピンクス氏は保証致していませんので、利用者の責任でダウンロードしてお使い下さいとのことです。なお、ここに掲載されている地下水モデルは世界的にも評価の高いもので、IGWMC(国際地下水モデリングセンターhttp://www.mines.edu/igwmc/ )のPaul van der Heijde所長もこのディレクトリーの作成に協力したようです。



11)水文地質学者のホームページ
The Hydrogeologist's Home Page

URL http://www.thehydrogeologist.com/index.htm
ブラウザ  最後はペンステートと呼ばれる米国ペンシルベニア州立大学の地球及び鉱物科学部<http://www.ems.psu.edu/>にあった水文地質学者のHPですが、現在は独立したアドレスになっています。このHPの特徴は地質学や水文学、水文地質学に関連した多くのHPのリンク集ですが、政府機関・大学・民間研究所・ソフトベンダーなどの分類だけで詳しい説明はありませんので、地球科学に関して米国の大学や研究機関の事情がある程度判らないと全部にアクセスしなければ詳細は判りません。
 元々この大学は農学校から出発した州立大学でしたが、現在では州政府からも独立した公益の学校法人です。ここの地球・鉱物科学部大学院の水文地質学科、地質学科、堆積学科、地化学科、石油・ガス学科、材料学科はどれもU.S. Newsの Annual Report全米のトップテンの地球科学系および工学系大学院にランキングされていて、教育カルキュラムや教授陣は非常に充実しています。

●U.S. News
http://www.usnews.com/usnews/edu/beyond/gradrank/gbgeosp3.htm
また、地球システム科学センターでは地球温暖化の研究と共に水文循環モデルの研究や河川流域管理システム、土壌システムや土壌水分の研究も行われています。

●地球システム科学センター
http://www.essc.psu.edu/
Penn State's Earth System Science Centerの研究プロジェクト
Center for Environmental Chemistry and Geochemistry - CECG
Center for Integrated Regional Assessment - CIRA
Earth Observing System - EOS GENESIS Earth Systems Model Hydrologic Model System - HMS Ice and Climate Research Group Susquehanna River Basin Integrated Assessment - SRBIA
Soil Information for Environmental Modeling and Ecosystem Management
Soil Water Content - SWC


●自然災害センター
http://www.essc.psu.edu/hazards/

●水環境のCurricular Topics
http://www.ems.psu.edu/HAMS/currtops.html
また、子供達のための水環境教育に関するカルキュラムやコースも設定されていて、環境教育の分野でも非常に良く考えられた内容を持った研究プロジェクトです。





 なお、本文は1998年10月20日、社団法人日本技術士会応用理学部会での講演を元に加筆したものです。
 最新の情報は@niftyに加入しているかたならば@niftyのFRIVERの会議室〔湧き水トーク〕にあります。また、@niftyの会員ではないかたのために以下のアドレスにて水文地質学に関するHPをご案内しようと思い、現在開設準備中です。2000年1月下旬には皆様にご覧いただけるよう努力中ですので、いましばらくお待ちください。
http://homepage1.nifty.com/ground_water/
(編集部より)
 本稿をもって原田氏の連載は終了いたします。3回にわたり執筆していただいた原田氏にお礼申しあげます。ありがとうございました。

著者紹介
 原田和彦
 アクアシステムズ研究所 代表
住 所: 〒184‐0003 東京都小金井市緑町1-3-31 K.Yビル 1F
連絡先: Tel 042-383-5825 FAX & Tel 042-383-5818
E-Mail: kharad@pp.iij4u.or.jp
専 門: 水文地質、水資源計画、水文環境、地下 水、地盤など水と土の調査解析と評価
著書等:
1995年「地下水盆の環境管理に関する研究」で日本地質学会賞を団体受賞
1993年  編共著 「地下水資源・環境論」共立出版
1978年  共訳  「地下水管理モデル」環境科学情報センター
1976年  共著  「地下水盆の管理」東海大学出版


ネットワークイラスト

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