寄稿
白河カトリック幼稚園のビオトープの目的
有限会社 建築工房
嶋影 健一住所:〒963-8851 福島県郡山市開成4-28-17
TEL:024-923-4861 FAX:024-923-4829

写真
2000年1月 三春ダムのビオトープを見学する先生方
 ビオトープとの最初の出会いは昨年の7月に県立高校の男女共学に伴う建て替えのためのプロポーザル(A3−1枚で設計者の資質が問われる競技)に参加した時である。私が参加したのは信夫山の南麓に位置する福島女子高校であり、その時の条件はエコスクール(エコロジーを重視したスクール)を創ることであった。
 エコロジーとは大辞林によれば「生態系と環境との関係を探る‘知’のあり方を指す」とあります。一般的には生態系と理解されていますが、そこには人間が如何に地球環境に負荷を掛け過ぎたかが反省としてあるような気がしますし、人間も自然界の生物の一部に過ぎないという謙虚な気持が要求されます。ここにきて一気に環境問題が表面化してきたことで、間違いなく21世紀には今の子供達はそれに直面しますし、それに立ち向かうために逞しい生命力が要求されます。それを作り上げるためのエコスクールだと理解しました。
 私が提案したものは※ビオトープを中心にしたエレベーター無しの3階建でしたが、選ばれたのは信夫山をシンボルとした住宅地の中に突然5階建(エレベーター5機)の壁が立ち上がるものです。悔しいのでエコスクールでなく、エゴスクールだと叫びましたが、エコロジーの解釈が色々あることも分りました。
 そこでこれは幼児の環境教育が最初ではないかと考え、この気持ちを白河カトリック幼稚園の川越園長さんにぶつけたのを国が聞いていたのか(?)、一ヶ月後に少子化対策として補助金が出ることになり、すぐビオトープを申請し思わぬところからスタートすることになりました。話はしてみるものですね。
 そこからは関係者全員(先生を含め約15名)で講義をうけたり、見学をしたりと右往左往の連続でした。ここにひとつ、その時のプロセスの一部を紹介しましょう。

《1》現在の地球環境問題について(ビオトープネットワークより)
地球環境破壊の原因
図
  1. オゾン層破壊
  2. 地球温暖化
  3. 森林破壊
  4. 酸性雨
  5. 生物種の絶滅
  6. 人工爆発
  7. 食料危機
  8. エネルギー資源の枯渇


具体的な例としての自然の生態系への影響について(ビオトープネットワークより)
図01 図02 図03
   生態系ピラミッド    森の片隅に家を建てるだけでも、
生態系というシステムに与える
影響は大きい
森の中央に道路を一本通した場合
の生態系への影響は甚大です
このように身の廻りで起っていることが、如何に自然破壊に繋がっているかが分ります。ここから最近話題になっている福島県のダムや林道とそこを棲みかにしているワシやタカの関係も理解できます。
《2》どういう解決方法があるか
地球環境に負荷を掛けない仕組
図
 21世紀にはエコロジカルな生き方が要求される。簡単に言えば昔に戻ることであり、それは※自然界の仕組を理解し、それに合った生活をする。

写真 ※自然界の仕組は4つに分析される
 (静岡大学杉山教授より)
  1. 物質循環
  2. エネルギー転位
  3. 食物連鎖
  4. 生態系
《3》幼児の環境教育とは
 今の子供達の置かれている立場を見ると、廻りに自然は無く、若い親も含め自然との交流は得意ではなさそうだ。それなら身近に自然を創ったらどうか、その方法として※ビオトープが登場する。
 これは自然界の一部を切り取ったミニ自然であり、今回は地下水と風力ポンプ(新協地水さんの汗と涙の結晶)による池中心のビオトープとした。しかし他のビオトープと違うのは、ただ観察する(幼児に強制するようにならないか?)だけでなく、もっと楽しめる仕掛があれば(水遊びが出来る)その延長上に生物や植物との接点が生れ、より自然に対する興味が起り、本能として持っている感性が引き出される。そして記憶として残ることも必要であるが、問題に立ち向かう人間に育ってくれることが本当の目的である。場所ひとつ決めるにも私のエゴがでたり(都合が悪くなるとちょくちょく顔を出す)で試行錯誤の連続でした。そして最後に決まったのがこの地球上に幸せを呼ぶために先生方が「ふくろう池」と命名してくれました。

 ここまでこれたことは、全員のバランス感覚と子供を愛する熱い気持ちがさせたことであり、現在、子供達の目を通して自然の回復力を観察中で、毎日が楽しみです。

写真


※ビオトープとはドイツ語でbio-生命、top-場所と表現される。生態学辞典によれば「特定の生物群集が共存できるような特定の環境条件を備えた均質なある限られた地域」とあり、身の廻りでの池・沼・湿地・草地・雑木林等は様々なタイプのビオトープである。


 もう少しお付き合い下さい。話はもっと前に戻りますが、私の所属するJIA(日本建築家協会)福島地域会がH10年9月に白河の南湖を守る会から南湖を汚れからどう守るかの提案を求められた。
 ここ数年の間に周囲は住宅地に開発され、生活排水が流れ込み同時に自然環境破壊も進んでいる。私も提案者の1人として参加し、自然の力を借りた葦群による浄化や、廻りの自然林の回復等、エコロジーを中心に提案した。しかし今回のビオトープを創って分ったことは発展性のない提案であり、根本的な解決に至っていないことに気が付いた。それは生活排水を出す人達にエコロジーを理解させる方法が無かったことである。

 例えば南湖とカトリック幼稚園の関係を図に示す。
図


 間の距離は4kmあるとする。幼稚園のトンボを南湖公園まで遊びに行かせるには、トンボの行動範囲は約1kmといわれているので中継点は3ヶ所必要となる。中継点は学校や城下町であるのでお寺が多く、その池を借りてもよい。そこでようやくトンボの交流ネットワークが出来上がる。子供達はトンボと共に南湖に関わりを持ち、幼稚園の水と南湖の水の違いに気が付く。
 このことは子供から親へそして地域全体へと浸透し、水への関心からエコロジーの理解へと展開していくだろう。これもビオトープを創る大きな目的のひとつだ。
 最近私は趣味のひとつにコンペ(設計競技)参加を宣言しました。これは勝つにこしたことはありませんが、そのつど自分の考えをまとめ、発表する機会が得られるからです。
 そして、また先日(6/20)未来博のエコファミリーハウスの国際コンペ(審査委員長フランス人)に恥ずかしげも無く参加しました。オリンピックと同じ心境です。
 最後になりますが、独り善がりの内容になってしまったことを反省すると共に、ビオトープ創りに御協力頂いた皆々様にこの紙面をお借りし、心から感謝申し上げます。


嶋影 健一氏  略歴
1942年福島県郡山市に生まれる
1960年県立安積高校卒
1966年芝浦工大建築学科卒業
1966年村松建築設計事務所
 高木滋生建築設計事務所
 東北建築工房
1980年(有)建築工房設立、現在に至る


JIA(日本建築家協会会員)
福島デザイン振興会会員
郡山市まちづくり推進協アドバイザー
○趣味 釣り。コンペ参加。


[前ページへ] [次ページへ]