寄稿
ビオトープから見えたもの
環いく房
相楽 昌男
住所:〒963-8862 福島県郡山市菜根5丁目17-14
TEL・FAX:024-935-0198
E-mail:waiku@db3.so-net.ne.jp
ホームページ:http://www02.so-net.ne.jp/~waiku/

◆『ビオトープ』とは
※Biotop≒bio-生物、top-生息空間(ドイツ語)
※Biotop=あらゆる生物群集とそれらを取り巻くすべての均質な環境を含めた一生態系の最小単位以上
 ある程度纏まった生物の集まりが永続的に生息・生育できる空間を意味します。
 ドイツでは徹底した政策が行なわれていて、自然復元の手法として盛んに行なわれています。


◆ なぜビオトープ?
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杉の子幼稚園工事前の様子

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工事後の様子
 多様な野生生物が生息している場所では、自然の物質循環がスムーズにおこなわれています。そのような空間は、人間にとっても快適だということが認識されてきました。
 現在、環境破壊が深刻な問題となっていますが、それは生態系(自然の物質循環)のバランスをこわすことによっておこりました。水質汚濁、大気汚染、地球温暖化(二酸化炭素濃度の上昇)、ゴミ問題等。
 自然との触れ合いは、わざわざ遠くへでかけるのではなく、日常住んでいる身の回りにあった方がいい。特に、子どもたちのために、生き物たちの触れ合いの場は確保してあげたい。健全な自然感や生命感を育むため、環境共育の場としてビオトープは必要なのです(本当は自然があればいらない)。




<須賀川市にある杉の子幼稚園での事例>
 “生き物”とふれあう、教える教育でない考える(感じる)共育ヘ広がりをもたせる空間づくりとして「生き物の棲む場所=ビオトープづくり」をおこなってきました。
 ベースとなる工事は完了しましたが、ビオトープに完成はありません。ビオトープづくりは工事完了時がスタート地点です。全体の骨組みまでは人が手を加えてやり、肉付けや化粧となる部分は、自然が構築してくれるものです。周辺に生息している生きものを最小限採集し、子供達の手でビオトープに放しました。子供達が参加し行われることにより、環境学習としての機能もビオトープに期待できると思います。人間が自然の中の一員であると言う認識が芽生えてくると考えられます。
 本ビオトープでは地域にもともとあったものを考慮して、以下のものを植えてあります。
また、PTAの方達から、小さな空間に合った繁殖力が強すぎないもの、外来種でないもの(帰化しているものとの境界が難しいですが)お持ち頂き、子供達の手で植えました。

  <植えられているもの> <子供達の手で植えました>
  草類 木類 日本タンポポ(外来種に押されている)
1 ツワブキ エゴノキ 日本アザミ(外来種に押されている)
2 スイセン ナツツバキ オオバコ
3 スイレン ヤマブキ ワラビ
4 ショウブ エノキ ゼンマイ
5 ミズバショウ ナナカマド 笹類
6 浜カンゾウ モミジ スミレ
7 姫シャガ ムヒカリ コゴミ
8 キショウブ シャラノキ
9 畑ワサビ ヤマボウシ
10 沢キキョウ クヌギ
11 ギボシ コナラ
12 ヒメロカリス アジサイ
13 イカリ草 ムクゲ
14 オキナ草 <みんなで放したもの>
15 レモングラス(砂場) くちぼそ
16 野カンゾウ どじょう
17 セリ フナ
18 ススキ おたまじゃくし
19 ハコベ カワニナ
20 フキ タニシ


写真 写真
杉の子幼稚園 ビオトープ誕生祭
2000年5月9日(放流の様子)
◆ ビオトープをつくってみて
 ―当初、イメージ作りが難しかったのですが、ゆっくり作ることで子供達が遊んでいるなかでPTA・先生・子供・地域の人たちみんなが参画し、思いなどを共有できました。
 はじめ子供達は池に入り込んだり、草を抜いたり、いろんなことをしました。ここで普通は叱るところですが、あえて叱らないでみんなで見守りつつ少し子供達に説明してみました。結構聞いてくれました。その後先生方がよく子供達を観察しているとどうも子供達はいろんなことを試していることに気付きました。最近では落ち着いてきて遊び方が変わってきています。これから豊かな自然に戻っていくのが楽しみです。またそのとき子供達はどんな遊びをするのか楽しみです。手作りできたので今後も自然に触れ合いながら学べます。昔のように地域の人たちと連携して多世代交流も面白いですね。

 現在飛来してくる小鳥や移動してきた生き物はヒヨドリ・カワラヒワ・ヨシキリ・ヤマバト・セキレイ・ハシボソカラス・モズ・シジュウカラ・メジロ・ツグミ・キビタキ・ムクドリ・オナガ・スズメ・ヤマガラ・アメンボ・ゲンゴロウの仲間などです。これから、じっくりモニタリングやレクチャーしながら自然への扉を再び開こうと思います。

◆最後に「ビオトープなんていらない!」
 ビオトープをつくって、白河の友人から言われたこのことばが本質的なものを端的にあらわしていると思います。
 わたしはこう理解しました。私達が子供のころ周りの自然があたりまえのようにあり、世代間を超えた地域の大人や子供たちが山や川で遊んでいた。いつからかプールができ、公園ができ…。決められた場所でないと遊べなくなった。「そんなところにまた(ビオトープとは名ばかりの)公園を作るのか!」といわれたと思います。
 これからの社会が自然豊かで持続可能な社会であることを望みます。

  1. 人々の自然観が、人間中心の中の自然から自然の中に共生する人へ戻るべきではないでしょうか。
  2. 金太郎飴的な人任せ的な町づくりでない地域ごとに自ら守り育ててきた文化としての自然との共生へ。
  3. 知識を詰め込む勉強でなく、個々が個性豊かに遊ぶことが必要なのではないでしょうか。
H12/6/24


編集部より
 ビオトープを作った白河の幼稚園と須賀川の幼稚園がNHKに取材されて、5月18日の「くらしのチャンネル」にて放送されました。



相楽 昌男 氏 略歴
1975年 日本大学工学部建築学科卒業
1975年 東京の建設会社
1981年 笠原工業株式会社(須賀川市)
1997年 環いく房開設現在に至る。

1998〜1999年 東日本水回廊舟運調査研究会にて、阿武隈川から江戸川の調査。逢瀬川・みんなの会委員として活動。

<所属>
NPO水環境ネット東北
NGOネットワーク「地球村」
NPO JCCN市民の化学ネットワーク 他

福島県知事認定 もりの案内人 第64号
一級建築施工管理技士

<当面の業務>
建築業務、CAD・CG/環境関連アドバイザー

<おすすめ本>
 ビオトープを考える上でバイブルといわれている本を二冊ご紹介します。

●「センス オブ ワンダー」
レイチェル・カーソン
上遠恵子 訳 新潮社 価格1,400円(税別)
 レイチェル・カーソンは海洋生物学者であり、ベストセラー作家でもあります。有名な著書に「沈黙の春」があり、本の題名や名前をすでにご存じの方もいると思います。
 内容はレイチェルが姪の息子と一緒に海辺や森の中を探検し、星空や、海を眺めた経験が書かれています。ここから、子供たちが持つ素直な感性の中に自然との共存への希望を託しています。彼女の最後の著書でもありますが60ページほどの読みやすい本です。

●「ビオトープ考 つくる自然・ふやす生態」
監 修:杉山恵一
座談会:杉山恵一・野田正彰・浜田剛爾
著 者:進士五十八、福留脩文、亀山章、岩村和夫
INAX出版 価格1,800円(税別)
 失われゆく生態系を取り戻すための興味深い試みの可能性を豊富な作例と論考で紹介しています。
 ビオトープに興味を持たれた方は是非読んでいただきたいと思います。

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