1.はじめに
福島県東部の阿武隈山地は花崗岩類からなり、応用地質的な問題としては以下の2つがある。
上記のような問題に取り組むためには、岩盤の地盤・地下水の状況を断面として把握する方法が有効であると考える。私たちは、岩盤の断面を捉える方法として、比抵抗法二次元探査を選定した。本報告では、これまで6年間に渡って実施してきた、阿武隈花崗岩地域の比抵抗法二次元探査を整理して発表するものである。
2.方法
比抵抗法二次元探査は図−1および表−1のようなシステムからなる。測定は、測線上の電流・電位電極と電流・電位遠電極で比抵抗値を測定する「二極法」である。
比抵抗法二次元探査結果の解析にはGIS社製「ELECPROF」を用いた。このソフトの機能として、「簡易解析」「リニアフィルター」「アルファセンター」法に「FEM」解析を加えることが可能であるが、主に「簡易解析」を利用し、他の解析方法は補助的に利用している。
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機 材 |
測定・制御システム | 比抵抗測定 | シスカルR1+ |
測定自動制御 | 測定制御機 | |
電極切替ボックス | ||
解析コンピュータ | ハードウエア | ワークステーション |
ソフトウエア | ELECPROF |
3.花崗岩地域の探査結果
3−1.探査実施例
図−2に阿武隈花崗岩地帯での探査結果例を示す。この例は、下水道工事に伴う推進工法や掘削計画の策定を目的とした岩盤状態の調査で、比抵抗法二次元探査と調査ボーリングを併用して探査を実施した。
図−2の両端にある調査ボーリングNo.5孔とNo.7孔はNo.6孔を挟んで46mの距離であるが、岩盤の状態がかなり異なっている。No.5孔では、盛土下にB級岩盤が分布しており、標準貫入試験サンプラーが全く貫入しない新鮮で硬質な岩盤である。一方No.6孔では、盛土下、砂質土を挟んでD〜CL級岩盤となっており、コアは粗砂〜礫〜短柱状に採取される。標準貫入試験サンプラーの貫入があり、岩盤が風化した状態である。No.7孔は硬質な部分(CM以上)と軟質な部分(CL以下)が見られ、標準貫入試験サンプラーも貫入する部分と貫入しない部分がある。
比抵抗値でみると、No.5孔側は高比抵抗(400Ω−m以上)である。高比抵抗部はNo.6孔付近で終わり、No.6孔付近は100〜300Ω−m程度の低比抵抗部となっている。No.7孔付近では100〜300Ω−m程度の低比抵抗部の中に、400Ω以上の高比抵抗部が点在する。
このため、探査結果とボーリング結果を比較した結果、400Ω−m以上の高比抵抗部は、比較的硬質な部分(CM級〜B級)で、100〜300Ω−mの低比抵抗部は風化部(D〜CL級)と解釈される。
3−2.花崗岩の岩盤の状態と比抵抗値
これまで実施してきた、阿武隈花崗岩地帯の比抵抗法二次元探査結果とボーリングコアの状態の比較を行った。花崗岩岩盤の状態の分類は、表−2に従った。
本報告では、比抵抗法二次元探査とオールコアボーリングを併用した調査について、比抵抗値とボーリングコアの状態を比較した。
検討にあたっては、深度5mを1単位とし、比抵抗値と岩盤の状態を比較した。これらを階級毎にまとめると、図−3のようになる。
コアが土砂状で採取され、D級岩盤に相当するランク4の比抵抗値は100〜300Ωの範囲内になる。コアが礫状〜短柱状のランク3では100〜400Ω−mでD級と近い状態である。コアが短柱〜棒状となるランク2では200〜500Ω−mとランク3、4に比べ高い比抵抗値を示す。新鮮な岩盤となるランク1はデータが少ないが300〜600Ω−mの高い比抵抗値を示す。
新鮮な岩盤ほど、比抵抗値が高い傾向を示す。特に比抵抗値が200Ω−m以下を示す部分は、花崗岩が風化によって土砂状・礫状となっている可能性が高いことが判明した。
の分類 |
岩級区分 |
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新鮮な花崗岩で、開口亀裂はなく、鉱物の変質はほとんどない。ハンマーでたたくと澄んだ音を出す。 |
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コアは短柱状〜棒状に採取され、表面はなめらかである。コアをハンマーでたたくと少し濁った音を出し、強くたたくと亀裂面にそって剥脱する。亀裂が多い状態で亀裂面は褐色化している。鉱物の周縁が変質している。 |
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コアは礫状〜短柱状に採取され、表面は比較的なめらかである。コアをハンマーでたたくと濁った音を出し、亀裂面にそって割れる。亀裂が縦横にある状態で亀裂面は褐色化または粘土化している。鉱物の周縁が変質している。 |
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コアは土砂状に採取され、鉱物間の粘着力は低い。コアの表面がでこぼこしている。鉱物の変質著しい。ハンマーで軽くたたくとコアが崩れる。場合によっては手でコアがほぐれる。 |
3−3.岩盤中の地下水と比抵抗値
まだ事例が少ないが、花崗岩中における現場透水試験値と比抵抗値の関係を図−4に示す。10〜10
cm/sec台の透水係数が得られる場合、比抵抗値は土砂化した花崗岩に相当する100〜300Ω−mを示している。
また、花崗岩中では比較的透水性が良いと判断される、10cm/sec台の透水係数が得られる場合、200〜400Ω−mの比抵抗値となり、10
〜10
cm/sec台の場合より高い比抵抗値となっている。実際、土砂化したD級岩盤(マサ)に比べて、開口亀裂の発達したC級岩盤の方が透水性は良いと考えられる。
次に、比抵抗法二次元探査によって井戸(試掘井戸や本掘井戸)を掘削する事例がかなりあるため、比抵抗値と井戸揚水量(段階揚水試験から得られた限界揚水量)との関係を図−5で比較した。
井戸の口径はφ150〜200mmで、深度は30〜110mとまちまちであるので、単純比較はできないが、透水係数と比抵抗値と似た関係が得られる。
100〜300Ω−mの低比抵抗値が得られる地点からは、50L/min以下、多くても100L/min程度の水量しか得られない。一方、花崗岩地帯で「比較的大量の水が出た」と評価されうる、100L/min以上の水量が得られた地点の比抵抗値は300〜600Ω−mである。このことから、土砂化して比抵抗値が低い花崗岩に比べ、亀裂の発達した比抵抗値が比較的高い花崗岩の方が地下水を得やすいことが推察される。
しかし、限界揚水量が20L/min以下で、ほとんど地下水が得られなかったケースも4例あり、比抵抗値は100〜800Ω−m以上とまちまちである。比抵抗値だけから井戸掘削位置を選定することは一定のリスクが伴う。探査によって得られる比抵抗構造や地表に露出する岩盤の構造、状態を考慮した上で井戸の掘削位置を選定する必要がある。
4.まとめと今後の課題
阿武隈花崗岩における比抵抗法二次元探査(二極法)結果から予想される岩盤と地下水の状況をまとめると、表−3のようになる。
阿武隈花崗岩地帯における岩盤・地下水の状態は、変化に富んでおり水平方向への連続性に乏しい。これまでの探査データを整理することで、比抵抗値から、岩盤や地下水の賦存状況について、ある程度の推定が可能であることが確かめられた。探査から得られる比抵抗構造および比抵抗値は、阿武隈花崗岩中における地盤・岩盤の調査、地下水調査、井戸掘削位置の選定などに応用が可能であると考える。
なお、今回は実施事例による制約から、地下水面以下の岩盤の状態について検討しているが、例えば花崗岩地帯の尾根上で、地下水面より上のマサや花崗岩核岩の比抵抗値などについても、今後、調査検討する必要がある。
今後も比抵抗法二次元探査はボーリング調査等、岩石を直接観察できる方法と併用して実施する必要があり、実際の岩盤の状況と照らし合わせながら、探査の精度を高めてゆきたいと考えている。
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真砂が粘土化している状態〜砂状の真砂。D〜CL級岩盤で、コアは砂状〜短柱状に採取され、コア表面は粗くぽろぽろしており、手で崩れる。 または、亀裂面に粘土を充填した強風化花崗岩である。 |
真砂で鉱物の粘土化が進んでおり、透水性は低い(10![]() 花崗岩の亀裂面が粘土で充填されている場合も透水性は低い。 |
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風化花崗岩でCM〜CH級岩盤である。コアは短柱状〜棒状に採取され、コア表面はなめらかである。コアはハンマーでたたくと割れる。亀裂面は開口しており褐色を呈する。 | 亀裂の発達した花崗岩の状態と考えられる。亀裂面に地下水を賦存していれば、10![]() 地下水賦存可能性が最も高い。 |
以上 |
弱風化花崗岩〜花崗岩で、B級岩盤以上である。コアは棒状に採取される。 | 亀裂に乏しい花崗岩の状態と考えられる。地下水に乏しい場合が多い。 |
※1 新協地水(株) 技術部地質環境課長
※2 新協地水(株) 技術部地質環境課 主任(発表者)
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