第32回地盤工学会研究発表会参加

調査課長 佐藤 正基

「みどりの地球〜地盤工学会」と題された第32回地盤工学研究発表会が、7月15日〜7月17日の3日間、熊本大学(熊本県熊本市)で開催されました。昨年に引き続きこの研究発表会に新協地水鰍代表し橋本(会津支店長)・佐藤(調査課長)の2名が参加し、「河床地下における水平集水管の目づまり機構の調査」という題目で発表を行いました。以下、発表論文を掲載いたします。


河床地下における水平集水管の目づまり機構の調査

アートスペース工学株式会社 正会員 小松田清吉
新協地水株式会社 同 上 ○橋本清一
同  上 同 上 谷藤允彦
同  上 同 上 佐藤正基

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1.まえがき
福島県郡山市を流れる一級河川の河床地下に河幅を斜めに横断する全長150mの水平集水管が設置され、認可限界取水量の約10,000m3/dを集水していた。時間の経過に伴い取水量が減少し、当初の約3分の1程度となったため、改修工事を行った。しかし改修直後、約10,000m3/dに回復した取水量が約3ヶ月間で再び3,500m3/dまで減少した。この取水量の減少の原因とそのメカニズムを調査した結果、河川流水に運搬されて河床に沈積した細土粒子が、集水管の周りに施した採石フィルターの間隙に吸い込まれて定着したためであることが明らかとなった。この調査と検討結果について報告する。


2.調査方法
水平集水管と地層構成を図-1に示す。予察により減水の原因を、@地下水中に含有する鉄分(0.7mg/l)などによって有孔部分が酸化して目づまりを起こした場合、Aフィルター材として埋戻した砕石の堆砂によって目づまりした場合の2通として調査を行った。
 地盤の地層構成の確認、各地層における水頭と透水係数の値を求めるため、深さ5mまでボーリング調査を行った。ボーリング孔を利用した現場透水試験は、深さ1.0〜1.5m、2.5〜3.0m、4.5〜5.0mの3ヶ所で、変水位法で行った。
 河川水を輪切りにしたドラム缶で止水し、埋め戻した砕石を、深さ0.2〜0.4mの2ヶ所から採取し、2試料について粒度試験を実施した。
 現場透水試験時に揚水した地下水3試料、集水管から揚水した水1試料および河川水1試料、合計5試料を採水し、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl-、HCO3-、SO42-の基本成分について、水質分析を行った。
また、プロペラ流速計で河川の流速を測定した。


3.調査結果

  1. 地層構成:地盤は、上下2層の砂礫層から成るる。上位砂礫層はGL(河床面)から2.40mまで分布する沖積層で、河床部にはφ100mm程度の大礫が見られる。下位砂礫層は、郡山層(洪積層)であり、上位層よりも締まっているが、礫径は小さい。水平集水管の管底は、GL-2.93mの深さに位置し、集水管断面の大半が下位砂礫層中に設置されている。
  2. 地盤の水頭と透水係数:現場透水試験孔での回復水位を測定した結果、どの深さにおいても回復平衡水位は河川水位と一致し、静水圧分布を示した。
    各深さにおける透水試験の結果をまとめると、表−1に示すとおりである。地層が深くなるにつれて透水係数の値が小さくなる傾向を示している。
  3. 埋戻し砕石(フィルター)の粒度:図−2に埋戻しに使用した標準砕石と、採取した砕石の粒度試験結果を、粒径加積曲線として示す。標準砕石に比べ、明らかに細粒子分が増加している。粒径D20が、0.03mm以上である粗粒土の透水係数は、k=0.36D202.37(cm/s)で推定することが出来る。この方法で各砕石の透水係数の値を推定すると、表−2となり、採取した砕石は、当初の砕石の透水係数の1/8〜1/14の値に低下している。この値は地盤の透水係数に近い。
  4. 水質区分:水質分析結果をキーダイヤグラムにして、図−3に示す。この結果、集水管から揚水している水質は、地下水と河川水を混合した水質を表わしている。
  5. 河川流速:河川流速は、V=0.25m/sである。

4.考察

  1. 流量:地盤と埋没した砕石の透水係数や水質分析の結果から明らかなように、集水管に流入する流水は、地盤と埋戻した砕石を通ってくる地下水と河川水である。図−1の断面を図−4のようにモデル化し、集水領域係数ζとを導入して、地盤からの流量Q1と砕石を通して流入する河川水流量Q2を、次式で算定した。

ここにK1:地盤の平均透水係数(=7.023×10-2m/min)、K2:砕石の垂直方向の平均透水係数(Kv/KH=1/5)として、K2=4.061×10-2m/min、ζ:集水領域係数(=0.225)H:河川水深(0.15m)、a:河床面から集水管中心までの深さ(=2.53m)、h0:揚水位面から集水管中心までの深さ(=2.38m)、r0:集水管の半径(0.4m)、L:集水管の水平長さ(=150m)として、流量を計算すると、Q1=1.21m3/min、Q2=1.02m3/min、全流量Q=2.23m3/min(3,211m3/d)となり、減水した現在の揚水量とほぼ一致した。同様の考え方で埋戻した当初の砕石の透水係数で全流量を計算すると16,747m3/dとなり、当初はこの程度の集水能力を持っていたものと考えられる。

  1. 砕石の間隙中に沈積した土粒子の性質:図−5は、図−2の標準砕石の粒度曲線を基準にして、各粒径に対する土粒子の増分含有率(%)を示したものである。この増分含有率が砕石の間隙中に沈積した土粒子であると考えられる。これによると粒径が1.5〜2.0mmでピークを示すが10mm以上になると増分が一定の値となる。これは砕石を採取する際の「乱れ」の影響を受けたためであろうと思われる。そこで、粒径10mm以上の土粒子は、砕石の間隙中に沈積しなかったとみなして、増分含有率を再整理すると、図−6となる。これによっても粒径が1.5mm付近でピークを示し、沈積した土粒子の平均粒径d=1.5mmであるとすることができる。
     河川流によって河床面で土粒子を押し流す限界流速Vは、の形で表される。ここに、g:重力の加速度(980cm/s2)、ρs:土粒子の比重(=2.65),F:摩擦係数(=1と仮定)、c:土粒子の形状係数(=1と仮定)、d=土粒子の直径(cm)とすると、V=56.9の関係となる。沈積した土粒子の平均粒径d=0.15cmで流速を求めると、v=22cm/sが得られ、測定した河川流速(V=25cm/s)にほぼ近い値である。
     一方、標準砕石の中央粒径(d50=18mm)に対して、標準偏差(σ=4.8mm)を考慮した砕石粒径d0=13.2mmの間隙径を計算すると、2.04mmとなり、沈積した土粒子(1.5mm)を吸い込むに十分な値である。

5.結論

  1. 水平集水管の減水は、フィルター材としての砕石の間隙に土粒子が沈積して生じた目づまりによるものである。
  2. 沈積した土粒子の大きさは、河川の限界流速によって決まる。
  3. フィルター材の粒径は、沈積土粒子を推定して決定する必要がある。