福島県の湧水シリーズ(その1)
天栄村湯本栃窪沢の湧水
編集委員 五月女 玲子
昭和30年ごろ、湯本地区では、伝染病が流行したことから、水道の布設が望まれ、これまで炭焼きをしている人たちのあいだで飲用されていた栃窪沢の湧水を水源とする簡易水道が完成しました。
湧出地点は、天栄スキー場入口の道路から栃窪沢をさかのぼって500mほど上流にあります。湧水付近の沢には、大小様々な安山岩の塊が散在しています。岩塊の表面には緑色のコケや水草が繁茂し、透明な水と微妙なコントラストを描いていました。
高原にあるため、8月にもかかわらず黄色い実をつけた木いちごが食べごろでした。緑色の葉を付けた広葉樹の木々が涼しさをさそいます。
水源地から溢れた湧水が、数本のパイプから放水され、この水が栃窪沢の水量のほとんどを占めています。
水量は豊富で。、約4m3/min(栃窪沢の流量)が湧出しています。この水量は、約1時間ほどで小学校のプール(25m×10m×1m)が一杯になる量に相当します。水温は、猛暑にもかかわらず9.1℃と冷たく、pH=7.2、電気伝導度Ec=49.9μS/cmでした。電気伝導度は、地下水の場合、滞留時間が長いほど地層中のイオンが溶け込むため、高くなります。当社で測定した水質試験結果を 表1に示します。
大変きれいな水といえます。味のある水で舌ざわりが良く、飲んだ後スッキリします。そのまま飲んでもおいしく、お茶やコーヒー、水割り用としてもすぐれています。ここでどのようにして水が湧きだしてくるのかをお話ししたいと思います。
湧出点付近は、二俣山の火山活動によってもたらされた土砂と溶岩が分布する火山山麓となっています。スキー場入り口付近の緩斜面には、安山岩の巨大な岩塊を含む泥〜砂〜礫〜火山灰からなるほとんど固結していない混合土砂(火山泥流堆積物)が分布しています。そして、この上には、厚く、硬い安山岩溶岩が分布し、急斜面を形成しています。この溶岩をよく見ると、中心部では緻密で堅くなっていますが、上部及び下部では熱い溶岩が急冷されたことによってできた、発泡質あるいは角礫状のガサガサした空隙の多い状態になっています。地下水はこの部分を流れているのです。
湧出点付近の湧水機構を、図2に示しました。下位の火山泥流は地下水を通しにくい、いわゆる難透水層です。それに対して上位の安山岩の下部は、いまお話ししたように空隙が多く、地下水が流動しやすい透水層になっています。浸透した地下水は、この火山泥流と空隙の多い溶岩の境目に集中して流れ、この境目が谷によって切られた地点から湧出したものと考えられてす。水源地付近からの湧水量が多くなっているのは、水を通しにくい下位の火山泥流の上面が、古い谷地形をかたちづくっていて、そのくぼんだ部分に地下水が集まって流れ下ったため多量の湧水を生じたものと考えられます。