地質技術者からみたアメリカ住宅とビルダー

新協地水調査課長 佐藤正基


新協訪米研修団(左は越田団長・右が著者)NAHBショー会場にて

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1.研修の目的
今回の研修ツアーは、日本の住宅産業がバブル経済崩壊以降も政府の経済政策の手段として使われてきたため、住宅着工戸数は最盛期の水準を維持してきましたが、これは一時しのぎ的な政策の結果であって、消費税5%の引き上げに伴い、4分の3程度の新築戸数に激減することが予想されていることに直面して、日本の住宅業者が年収の3倍程度の価格で住宅を供給し、住宅市場を維持しているアメリカの住宅産業から多くを学ぶ必要から実施されました。私自身は、本来地質調査業に携わっているものの今回新協建設の研修団(越田石川支店長を団長に増岡広島支店長、萩原住宅事業部長、堺営業所の弥園主任)と共にこのツアーに参加し、アメリカの住宅産業の高い労働生産をあげている仕組みと管理の手法を学び、我が社の生産性向上のあり方を見いだすため参加いたしました。


2.アメリカ住宅地及び住宅の現状
住宅産業の高い労働生産性と高品質の仕組み、そして高品質の現状については、24日に訪れたヒューストンの大規模住宅開発地「ウッドランド」の住宅地及びモデルハウスを参考に考えてみたいと思います。ウッドランド住宅地は、ヒューストンの北、車で1時間の場所に位置し、広大な敷地に自然の景観を最大限に取り入れ、森林の中に湖、そしてフル企画のゴルフ場が8コース、その他あらゆるスポーツ施設があり、住宅地のエリア付近にはショッピングセンター、病院、公立の小中学校など、さらに周辺には企業700社からなる工業地が含まれ、住・職一貫の総合的な大規模住宅開発です。現在は47,000人が入居していますが、将来的には130,000人が入居するそうです。これらの開発にかかる年数は25年であり、日本の住宅開発のイメージが一掃されるすばらしい住宅開発地でありました。そこに建てられる住宅は、300坪程度の敷地にベッドルームが3〜4部屋といった大邸宅、いずれもすばらしい出来映えでした。金額的には1,500万〜2,500万円(アメリカの場合土地代も含まれ、土地代の割合は約25%)程度であり、年収の2倍(1世帯の平均年収が600〜700万円)で購入できる価格です。
 アメリカの住宅地開発は、道路及び下水道等の社会的資本が充実した公共的社会事業として位置づけられていることに驚きとアメリカ人の精神的なゆとりの根源をかいま見た感じがしました。これが今回の研修ツアーで見てきた工事現場、そしてドア、窓といった住宅関連部材メーカーの高い生産性と高品質の集約であり、この仕組みそして管理の方法を我々が学ぶべきだと実感いたしました。


3.労働生産性と高品質の仕組み、そして管理の手法
労働生産性と高品質の仕組み、そしてその管理の手法については、実際の工事現場で働く現場監督から聞いた話と、窓のメーカーであるアンダーセンウインドウ社を訪問して感じたこと、そして97NAHBショーをこの目で見た感想をまとめ、解明していきたいと考えます。
アメリカの建設会社は、建設技術者を雇用するのではなく、全て請負の関係にあるということです。従って、技術者が計量された工程、計画された品質、計画されたコストで進めなければ、当然請負計画は破棄されますし、本人も死活問題になりかねません。給与は時間給であり、腕の立つ技術者は同時に複数の物件を消化していくと共に住宅が出来る過程で各専門技術者に細分化され合理的に建設が出来るということです。ここに計画された工程、計画された品質、計画されたコストということが常識として成り立つのです。各専門技術者の工程を総合的に管理しているのがスパーインテンデントと呼ばれる現場監督であり、合理的な作業組立とプロジェクト進渉管理によって効率を改善し、より多くの作業を短時間で行えるようにするということです。そのためには個々の作業の無駄無理作業を改善するのではなく、プロジェクト全体の接続を改善し、各作業工程を楽にすることが必要です。次にアンダーセンウインドウ社を訪問して感じたことについて述べたいと思います。アンダーセンウインドウ社は、会社の理念として、

  1. 美しい窓を通し美しい空間の作り方を従業員全員で考える。
  2. プライベートカンパニーであり、個人個人が自分でやった仕事に誇りをもっている
  3. アンダーセンスピリット(魔法の絆)による根本的な人間哲学

を掲げ、これら一つ一つが全従業員に深く浸透し、確実に実行に移されたことにより、窓のデザイン面から現代住宅へ大きく貢献したということです。訪問当日(1月24日)、ミネアポリス市は一面が雪景色で、氷点下であったものの工場内は非常に暖かく、全従業員が半袖姿で非常に明るく、そして陽気に仕事をしているのに驚かされました。中でも一つ一つの部材に刻印がしてあり、責任の所在を明確にしてあるということです。私自身部材の加工の精度仕上がり状態については全くの素人であるためコメントできませんが、製品自体を日本の製品と比較すると安価であるものの品質が良く、非常に美しいということでした。窓を作る一つの会社が、このような仕組みと考えで企業活動を行っている現実に、アメリカの住宅産業全体が国民の購買できる範囲で高品質のものを自信と誇りを持って提供していることが伺えました。最後に、97NAHBショーをこの目で見た感想について述べたいと思います。NAHBショーは一般公開ではなく専門業界向けの会議及び展示会を目的としており、全米のホームビルダーがここに集い、最新の技術と最新の製品を学び、高い住宅生産性を維持するために努力を惜しまないということです。この結果として、小規模な経営であっても十分に高い水準を維持し続けることができるのでしょう。


4.最後に
97NAHBショーとCM研修ツアーに参加し多くのカルチャーショックを受け、合理的な仕組み、そして管理の手法を学びました。この研修を無駄にしないためにももう一度研修内容を整理し、今後我が社が取り組まなければならないことを明確にしてきたいと考えます。
我が社が高い生産性を上げコストを低減していく方策が幾つか明らかになってきたように思われます。それを幾つか具体的方策として考えていきたいと思います。

  1. 他社が真似できない機械・工種を開発し、他社との差別化を図る。
  2. 先に計画有りと言ったコンストラクションマネイジメントを全員で学び、合理的な工程を立案する。我社のような職種では一つ一つの工事が比較的単純な流れであることから3〜4の複合した現場のモデルを作り上げ工程計画を行い管理すること。
  3. 技術者の自信と誇りを促すために、必要な処置を講ずること。
  4. 各学会等に数多く参加し、自己研鑽を進める社内風土を構築する。

今後、これらの内容について検討し具体的な方策を立案していきたいと考えます。